「意味とかじゃなくて」
「あたし他にもいくつか能力があって。サイコメトリーは知ってる? 人の残留思念を読み取る力。あと、こんな風に触らないでものを動かすサイコキネシス」
 彼女がテーブルに置いた缶へ目を遣ったと同時に、缶はすうっと宙を移動し、再び彼女の手の中へやってきた。せっかくだからと一口飲んで、彼女は謎の力で缶をテーブルへ戻す。
「勿論普段はやらないわよ。普段はみんなと変わらない生活」
 彼女は口の周りについたビールの泡をぺろりと舐め取ると、小さく笑った。
「あたしだけ知ってたんじゃ不公平だもんね。あたしの名前はけえ子。人呼んで、サイキックホステスけえ子。今日は、お店はお休みなの。よろしくね、モカちゃん」
 サイキックホステスけえ子!? フレーズのパワーが強すぎて、モカは口をぱくぱくとさせるばかりだ。

「モカちゃんのね、パンツが丸見えだったもんだから。ムラムラっときて思わず助けちゃったのよ、ほら」
 けえ子と名乗った彼女が、スマホの画面をモカに見せる。そこには、まるでおしゃかになった傘のように膨らんだスカートからむき出しになった脚を突き出しているモカの姿が映っていた。自分だと分かったのは、見覚えのあるパンツが丸見えだったからだ。
「ああ、こっち向きこっち向き。モカちゃんが真っ逆さまになって屋上から落ちてるところね」
 けえ子……さんがスマホの向きを変えた。重力に従って、すべてがひっくり返る。髪の毛は逆立ち、ブレザーははためき、スカートはまくれ上がり、パンツは丸見え。酷い、これは酷い。
「ちょ、ちょっとこの画像、返して下さい!」
「だーめ」
 慌てて手を伸ばしたモカを、けえ子さんは制した。
「どうせ死ぬ筈だったんだから、別にいいじゃない。ちなみにこれはあたしの念写。よっぽどタイミング良く狙っていた人でもいない限り、この恥ずかしい画像が出回ることはないわ」
 ふふふ、とけえ子さんはモカのパンツ画像を見て嬉しそうに笑っている。何なら人差し指と中指でピンチインしている。
「ちょっと、拡大しないで下さいよ!」
「モカちゃん、ちょっと太もものお肉少ないわね。もう少しむっちりしている方が、あたしの好み」
「けえ子さんの好みなんて知りませんよ」
 けえ子さんの手元にあるスマホを取り上げようと、モカは立ち上がった。
「あ、」