そんな子供を産んだお母さんもおかしいって言われて、お母さん追い詰められちゃって。後妻さんだから立場弱いんだよね、きっと。お前みたいな子、産むんじゃなかったって、ずっとけえ子さんに辛く当たってたみたい。
 けえ子さん、小さい時に遠い親戚へ預けられたんだって。お金は送ってくれたけど、お父さん達とはそれ以来一度も会ってないそうよ──。

「……酷い」
「ね。お金で解決させられる人生なんてくそくらえだって、けえ子さん夜の仕事でめちゃくちゃ稼いで、今まで仕送りされてた金額、全部返してやったって笑ってた」
「凄い」
 超能力を使えば、上手く世渡り出来そうな気もするけれど、そうはしなかったのがけえ子さんらしい、とモカは思った。
「自分の生殺与奪の権を他人に委ねるな、がけえ子さんのモットーなの」
「セイサツヨダツ?」
「なんて言ったらいいのかな、自分の人生の主導権は自分が握らなきゃだめだ、って感じかな」
「人生の主導権……」
 自分の中の核、というモカのイメージと同じようなことなのだろう。自分自身を否定された経験があったから、そういう人を見るとほっとけないのかもしれない。

 一度は人生の主導権を奪われたけれど、けえ子さんは自力で取り戻した。
(じゃあわたしは?)
 モカはふと立ち止まる。お母さんに生殺与奪の権を握られて、それで本当に自分の人生終わった?

「うわ最悪、スマホ落とした。ウェットティッシュ……え、うそ。ない!」
 モカが考え込んでいると、隣でバタバタとみづ穂さんが慌て出した。持っていたスマホを取り落としてしまったらしい。
「え、ハンカチならありますけど」
「ダメなの、除菌じゃないと。モカちゃんと連絡取る用だから、すぐに使えないと困っちゃう。ごめん、ちょっと薬局行ってくるからここで待ってて」
 みづ穂さんは手袋をした手でスマホをつまみ上げると、横断歩道の反対側にある薬局に向かって走り出した。
 地面に落としたスマホは除菌しないと素手で触れないのか。モカはみづ穂さんの慌てぶりを理解した。

 いろんな人がいるんだな。モカは自分のいた世界が、とても狭かったということに思い当たった。狭い世界の中で未来を嘆いていたけれど、そんな嘆きなどかき消されてしまうくらい世界は広いのかもしれない。
 そんなことをぼうっと思い描いていた時。
「ん? あの子何してんだろ」