テスト前最後の休日、朝起きて瀬戸くんに声をかけた。
「ねえ、今日は一緒に勉強しない? 誰かと一緒の方が捗るかなって」
「……お前友達いねえの?」
「失礼な、ちゃんといるよ!」
「じゃあそいつらとやれよ」
「僕は瀬戸くんと一緒にやりたいんだけど……」
瀬戸くんは難しい顔をして考え込んでいる。
「瀬戸くんの邪魔はしないって約束するから! それに人に教えるのも勉強になるって言うし」
「教わる側が言うなよ」
もっともなツッコミである。
「……やっぱりダメ?」
「……まあ、いいけど」
「本当!?」
「ただし、条件がある。昼飯奢れ」
「そんなことでいいなら喜んで!」
朝食を済ませた後、部屋で瀬戸くんとテスト勉強を始めた。瀬戸くんはほとんど教科書を読んでいるだけだったけれど、時々僕の様子を見てくれる。
「ここ、間違ってるぞ」
「え? どこ?」
「この問題。途中の計算式が違うだろ」
「えーっと……ああ、なるほど!」
瀬戸くんの教え方は上手かった。質問すればすぐに答えてくれるし、何より分かりやすい。夢中になって問題に取り組むうちに、気がつくと正午近くになっていた。
「そろそろお昼にしようよ。何か食べたいものある?」
尋ねると、瀬戸くんは少し考えてから口を開いた。
「ラーメン」
「ラーメン好きなの?」
「まあまあ」
彼はどんなメニューでも残さず食べているから、好き嫌いは少ないのかもしれない。
改めて考えてみると、僕は瀬戸くんについてあまり知らない。好きな食べ物だけじゃなく、趣味もまだよく分からない。もっと瀬戸くんのことを知りたかった。
「今度さ、どこか遊びに行かない?」
「は?」
「もっと瀬戸くんと仲良くなりたいし、お互いのことを知れたらいいなと思って」
「……」
「瀬戸くん?」
瀬戸くんはなぜか黙り込んでしまった。まずいことを言ってしまっただろうか。
「あの、ごめんね。変なこと言って。嫌だったらいいからね」
「行く」
「えっ?」
「お前に付き合ってやるって言ったんだよ」
「本当に!?」
「嘘ついてどうすんだ」
「嬉しい! ありがとう」
僕はつい笑顔になった。それを見た瀬戸くんは呆れたようにため息をつく。
「……お前、よく笑うよな」
「そうかな?」
「自覚ねえのかよ」
「うーん……瀬戸くんといると楽しくなっちゃうからかな」
「……」
瀬戸くんはまた黙り込んだが、今度は耳が赤くなっていた。照れているのかもしれない。
「楽しみだなあ」
「……」
「よし! じゃあお昼食べに行こう!」
昼食は近所のラーメン屋に行き、約束通り瀬戸くんに奢った。
中間テストでは、苦手な数学もなんとか解答欄を全て埋められた。瀬戸くんのおかげだ。
そして今日は土曜日、瀬戸くんとの約束の日だ。
しばらくバスに揺られ、バス停から歩くこと数分、目的地のボウリング場に着いた。
僕はあまり友達と遊びに行った経験がない。みんながどこに行くのか分からず、瀬戸くんに行きたいところを聞いてみても「どこでもいい」とぶっきらぼうに返されてしまった。悩んだ末に佐伯くんに相談したらカラオケかボウリングがいいんじゃないかとアドバイスをもらったのだ。
受付をしてシューズを借り、早速レーンに向かう。
「瀬戸くん、どのくらいできる?」
「知らねえ。初めてだ」
「えっ、そうなの? 僕もほぼ初めてだよ」
「じゃあとりあえずやってみるか」
まずは瀬戸くんがボールを投げた。綺麗なフォームだ。あっという間にピンが倒れていく。初めてだというのにすごい。
「次お前」
「えっ、あ、うん」
見惚れている場合ではなかった。僕も緊張しながらレーンに立つ。せめて一本は倒そうと決めて投げてみると、意外と勢いよく転がっていった。しかし途中で横に逸れてガターに吸い込まれてしまった。
「あー……意外と難しいね」
「もう一回」
「う、うん!」
二投目も同じ結果だった。その後も瀬戸くんはどんどんストライクを取り、僕は何度もガターを出す始末である。
「お前なあ……勝負になんねえよ」
「うう……ごめん……」
「大体、投げ方がなってねえんだよ」
そう言うと瀬戸くんは僕の後ろに立ち、腕を掴んできた。
「もっとこう、足を開いて……余計な力抜いて……よし」
そのままぐいっと引っ張られ、前につんのめってしまった。しかしその反動で放たれたボールは真っ直ぐに転がりピンを倒していった。
「おお! できた!」
振り返って瀬戸くんを見ると、彼は満足げな表情を浮かべていた。
それから何度か練習し、だいぶまともになってはきたものの、三ゲームやっても結局最後まで瀬戸くんには勝てずに終わった。
やっぱり瀬戸くんは勉強だけじゃなくて運動もすごいんだ。
ボウリングを終えた後、近くのファミレスに入った。
「オムライスにしようかな。瀬戸くんは?」
「ハンバーグ」
「ハンバーグ好きなの?」
「まあ……つーか嫌いな奴いねえだろ」
また瀬戸くんの好きなものを一つ知ることができた。ラーメンにハンバーグ……意外と子どもっぽいかもしれない。
「瀬戸くんの好きな食べ物って、なんかかわいいね」
思わずそう言うと、瀬戸くんは僕を睨み付けた。
「馬鹿にしてんのか」
「ち、違うよ! そういう意味じゃなくて、イメージと違ってて良い意味でかわいいっていうか……あれ? これ褒めてる?」
自分でもよく分からなくなって混乱してきた。そんな僕を見て、瀬戸くんはふっと笑った。
「もういい、分かったから。ほら注文しろ」
「あっ……瀬戸くん、今笑った!」
僕は驚きのあまり立ち上がってしまった。しかし周囲の視線が集まっていることに気づき、すぐに慌てて座る。
「何やってんだよ、お前……」
瀬戸くんの顔はいつもの仏頂面に戻っていた。
「ごめん、つい……。瀬戸くんが笑ったところ初めて見たから、嬉しくて」
「……そうかよ」
瀬戸くんはそっぽを向いてしまった。これは照れ隠しかな。
その後運ばれてきた料理を食べながら、色々な話をした。
「瀬戸くんは土日よく出掛けてるけど、何してるの?」
「バイト。バイク買うために金貯めてる」
「そうなんだ、かっこいいね! 瀬戸くんに似合いそう!」
「お前はママチャリが似合いそうだな」
「……それどういう意味?」
「所帯染みてるっつーか、垢抜けないっつーか……」
瀬戸くんが話している最中、テーブルに置いてあった彼のスマホが震えた。画面に表示された「母」という文字を見た瞬間、瀬戸くんの表情が曇る。そして電話には出ずにスマホをポケットにしまった。
「出なくていいの?」
「いい」
「お母さん?」
「ああ」
「……あんまり仲良くない?」
「……」
返事はない。どうやら当たりらしい。僕は話題を変えることにした。
「そういえば、瀬戸くんってご飯の食べ方きれいだよね」
「……」
瀬戸くんは無言のままだ。これも触れられたくないことだったんだろうか? 難しい……。
「えーっと……今日はどうして僕と一緒に出かけてくれる気になったの?」
「それは……」
瀬戸くんは一瞬言葉に詰まり、再び口を開いた。
「……お前が、変なことばっかり言うから」
「僕が?」
「仲良くなりたいとかなんとか……」
確かに何度も言っている。でもまさかそれを気にかけて一緒に遊んでくれるなんて思わなかった。やっぱり瀬戸くんは優しい人だ。
「じゃあ今日はたくさん遊びたい! まだまだ時間もあるし!」
「まだ遊ぶつもりなのかよ」
「うん。このあとどうする?」
「ゲーセン」
「やった!」
僕がガッツポーズをすると、瀬戸くんは少し呆れたようだった。でも何だかんだで付き合ってくれるのが嬉しいと思った。
その後ゲームセンターに行き、街中をぶらぶら歩いているうちに暗くなってきた。そろそろ帰らないと夕食の時間になってしまう。
「楽しかったー!」
僕は伸びをしながら言った。本当に楽しい一日だった。こんな日が来るとは思ってもいなかった。
「瀬戸くんは? 楽しかった?」
「まあ」
「良かった、また来ようね」
僕が笑うと、瀬戸くんは目を逸らす。
「……帰るぞ」
僕達は再びバスに乗り込んだ。座席が空いていたため、並んで腰掛ける。
「疲れただろ」
「うーん……ちょっとだけ」
正直かなり体力を消耗していた。知らない街を歩いたり、慣れないボウリングをやったりしたからだろう。
バスの揺れが心地よく、すぐに眠気が襲ってくる。
「寝とけよ」
「うーん……」
「起こしてやるから」
その声を聞いた直後、僕の意識は途切れた。
「おい、起きろ」
肩を揺さぶられて目が覚めた。ぼんやりとした視界に映るのは見覚えのある景色。ここは寮の近くだろうか。
僕はいつの間にか瀬戸くんにもたれかかって寝ていたようだ。
「あっ、ごめん! 僕、ずっと寄り掛かってたよね。重かったでしょ」
「いや、大丈夫だ」
「ほんとに?」
「本当だって。お前チビだし。ほら降りるぞ」
瀬戸くんは僕を置いて歩き出した。急いでその背中を追う。
今日は瀬戸くんのことをたくさん知ることができた。彼の意外な一面を見ることもできて嬉しかった。
それに、あの笑顔も見られた。
思い出すだけでなぜか顔が熱くなった。心臓がどきどきしている。
「……変なの」
そう呟いて、僕は瀬戸くんに追いつくために足を早めた。
「ねえ、今日は一緒に勉強しない? 誰かと一緒の方が捗るかなって」
「……お前友達いねえの?」
「失礼な、ちゃんといるよ!」
「じゃあそいつらとやれよ」
「僕は瀬戸くんと一緒にやりたいんだけど……」
瀬戸くんは難しい顔をして考え込んでいる。
「瀬戸くんの邪魔はしないって約束するから! それに人に教えるのも勉強になるって言うし」
「教わる側が言うなよ」
もっともなツッコミである。
「……やっぱりダメ?」
「……まあ、いいけど」
「本当!?」
「ただし、条件がある。昼飯奢れ」
「そんなことでいいなら喜んで!」
朝食を済ませた後、部屋で瀬戸くんとテスト勉強を始めた。瀬戸くんはほとんど教科書を読んでいるだけだったけれど、時々僕の様子を見てくれる。
「ここ、間違ってるぞ」
「え? どこ?」
「この問題。途中の計算式が違うだろ」
「えーっと……ああ、なるほど!」
瀬戸くんの教え方は上手かった。質問すればすぐに答えてくれるし、何より分かりやすい。夢中になって問題に取り組むうちに、気がつくと正午近くになっていた。
「そろそろお昼にしようよ。何か食べたいものある?」
尋ねると、瀬戸くんは少し考えてから口を開いた。
「ラーメン」
「ラーメン好きなの?」
「まあまあ」
彼はどんなメニューでも残さず食べているから、好き嫌いは少ないのかもしれない。
改めて考えてみると、僕は瀬戸くんについてあまり知らない。好きな食べ物だけじゃなく、趣味もまだよく分からない。もっと瀬戸くんのことを知りたかった。
「今度さ、どこか遊びに行かない?」
「は?」
「もっと瀬戸くんと仲良くなりたいし、お互いのことを知れたらいいなと思って」
「……」
「瀬戸くん?」
瀬戸くんはなぜか黙り込んでしまった。まずいことを言ってしまっただろうか。
「あの、ごめんね。変なこと言って。嫌だったらいいからね」
「行く」
「えっ?」
「お前に付き合ってやるって言ったんだよ」
「本当に!?」
「嘘ついてどうすんだ」
「嬉しい! ありがとう」
僕はつい笑顔になった。それを見た瀬戸くんは呆れたようにため息をつく。
「……お前、よく笑うよな」
「そうかな?」
「自覚ねえのかよ」
「うーん……瀬戸くんといると楽しくなっちゃうからかな」
「……」
瀬戸くんはまた黙り込んだが、今度は耳が赤くなっていた。照れているのかもしれない。
「楽しみだなあ」
「……」
「よし! じゃあお昼食べに行こう!」
昼食は近所のラーメン屋に行き、約束通り瀬戸くんに奢った。
中間テストでは、苦手な数学もなんとか解答欄を全て埋められた。瀬戸くんのおかげだ。
そして今日は土曜日、瀬戸くんとの約束の日だ。
しばらくバスに揺られ、バス停から歩くこと数分、目的地のボウリング場に着いた。
僕はあまり友達と遊びに行った経験がない。みんながどこに行くのか分からず、瀬戸くんに行きたいところを聞いてみても「どこでもいい」とぶっきらぼうに返されてしまった。悩んだ末に佐伯くんに相談したらカラオケかボウリングがいいんじゃないかとアドバイスをもらったのだ。
受付をしてシューズを借り、早速レーンに向かう。
「瀬戸くん、どのくらいできる?」
「知らねえ。初めてだ」
「えっ、そうなの? 僕もほぼ初めてだよ」
「じゃあとりあえずやってみるか」
まずは瀬戸くんがボールを投げた。綺麗なフォームだ。あっという間にピンが倒れていく。初めてだというのにすごい。
「次お前」
「えっ、あ、うん」
見惚れている場合ではなかった。僕も緊張しながらレーンに立つ。せめて一本は倒そうと決めて投げてみると、意外と勢いよく転がっていった。しかし途中で横に逸れてガターに吸い込まれてしまった。
「あー……意外と難しいね」
「もう一回」
「う、うん!」
二投目も同じ結果だった。その後も瀬戸くんはどんどんストライクを取り、僕は何度もガターを出す始末である。
「お前なあ……勝負になんねえよ」
「うう……ごめん……」
「大体、投げ方がなってねえんだよ」
そう言うと瀬戸くんは僕の後ろに立ち、腕を掴んできた。
「もっとこう、足を開いて……余計な力抜いて……よし」
そのままぐいっと引っ張られ、前につんのめってしまった。しかしその反動で放たれたボールは真っ直ぐに転がりピンを倒していった。
「おお! できた!」
振り返って瀬戸くんを見ると、彼は満足げな表情を浮かべていた。
それから何度か練習し、だいぶまともになってはきたものの、三ゲームやっても結局最後まで瀬戸くんには勝てずに終わった。
やっぱり瀬戸くんは勉強だけじゃなくて運動もすごいんだ。
ボウリングを終えた後、近くのファミレスに入った。
「オムライスにしようかな。瀬戸くんは?」
「ハンバーグ」
「ハンバーグ好きなの?」
「まあ……つーか嫌いな奴いねえだろ」
また瀬戸くんの好きなものを一つ知ることができた。ラーメンにハンバーグ……意外と子どもっぽいかもしれない。
「瀬戸くんの好きな食べ物って、なんかかわいいね」
思わずそう言うと、瀬戸くんは僕を睨み付けた。
「馬鹿にしてんのか」
「ち、違うよ! そういう意味じゃなくて、イメージと違ってて良い意味でかわいいっていうか……あれ? これ褒めてる?」
自分でもよく分からなくなって混乱してきた。そんな僕を見て、瀬戸くんはふっと笑った。
「もういい、分かったから。ほら注文しろ」
「あっ……瀬戸くん、今笑った!」
僕は驚きのあまり立ち上がってしまった。しかし周囲の視線が集まっていることに気づき、すぐに慌てて座る。
「何やってんだよ、お前……」
瀬戸くんの顔はいつもの仏頂面に戻っていた。
「ごめん、つい……。瀬戸くんが笑ったところ初めて見たから、嬉しくて」
「……そうかよ」
瀬戸くんはそっぽを向いてしまった。これは照れ隠しかな。
その後運ばれてきた料理を食べながら、色々な話をした。
「瀬戸くんは土日よく出掛けてるけど、何してるの?」
「バイト。バイク買うために金貯めてる」
「そうなんだ、かっこいいね! 瀬戸くんに似合いそう!」
「お前はママチャリが似合いそうだな」
「……それどういう意味?」
「所帯染みてるっつーか、垢抜けないっつーか……」
瀬戸くんが話している最中、テーブルに置いてあった彼のスマホが震えた。画面に表示された「母」という文字を見た瞬間、瀬戸くんの表情が曇る。そして電話には出ずにスマホをポケットにしまった。
「出なくていいの?」
「いい」
「お母さん?」
「ああ」
「……あんまり仲良くない?」
「……」
返事はない。どうやら当たりらしい。僕は話題を変えることにした。
「そういえば、瀬戸くんってご飯の食べ方きれいだよね」
「……」
瀬戸くんは無言のままだ。これも触れられたくないことだったんだろうか? 難しい……。
「えーっと……今日はどうして僕と一緒に出かけてくれる気になったの?」
「それは……」
瀬戸くんは一瞬言葉に詰まり、再び口を開いた。
「……お前が、変なことばっかり言うから」
「僕が?」
「仲良くなりたいとかなんとか……」
確かに何度も言っている。でもまさかそれを気にかけて一緒に遊んでくれるなんて思わなかった。やっぱり瀬戸くんは優しい人だ。
「じゃあ今日はたくさん遊びたい! まだまだ時間もあるし!」
「まだ遊ぶつもりなのかよ」
「うん。このあとどうする?」
「ゲーセン」
「やった!」
僕がガッツポーズをすると、瀬戸くんは少し呆れたようだった。でも何だかんだで付き合ってくれるのが嬉しいと思った。
その後ゲームセンターに行き、街中をぶらぶら歩いているうちに暗くなってきた。そろそろ帰らないと夕食の時間になってしまう。
「楽しかったー!」
僕は伸びをしながら言った。本当に楽しい一日だった。こんな日が来るとは思ってもいなかった。
「瀬戸くんは? 楽しかった?」
「まあ」
「良かった、また来ようね」
僕が笑うと、瀬戸くんは目を逸らす。
「……帰るぞ」
僕達は再びバスに乗り込んだ。座席が空いていたため、並んで腰掛ける。
「疲れただろ」
「うーん……ちょっとだけ」
正直かなり体力を消耗していた。知らない街を歩いたり、慣れないボウリングをやったりしたからだろう。
バスの揺れが心地よく、すぐに眠気が襲ってくる。
「寝とけよ」
「うーん……」
「起こしてやるから」
その声を聞いた直後、僕の意識は途切れた。
「おい、起きろ」
肩を揺さぶられて目が覚めた。ぼんやりとした視界に映るのは見覚えのある景色。ここは寮の近くだろうか。
僕はいつの間にか瀬戸くんにもたれかかって寝ていたようだ。
「あっ、ごめん! 僕、ずっと寄り掛かってたよね。重かったでしょ」
「いや、大丈夫だ」
「ほんとに?」
「本当だって。お前チビだし。ほら降りるぞ」
瀬戸くんは僕を置いて歩き出した。急いでその背中を追う。
今日は瀬戸くんのことをたくさん知ることができた。彼の意外な一面を見ることもできて嬉しかった。
それに、あの笑顔も見られた。
思い出すだけでなぜか顔が熱くなった。心臓がどきどきしている。
「……変なの」
そう呟いて、僕は瀬戸くんに追いつくために足を早めた。