きみがいる、この世界で。


夜ご飯を済ませベランダにでると、生ぬるい風が一気に身体にまとわりつく。
思っていたよりも風は強くて、髪の毛が右から左へ大きく揺らされる。横髪で見えなくなった視界をクリアにしようと上を向くと、小さな星がたくさん輝いていた。

「どうかしましたか」

横から聞こえた知っている声に、慌てて顔を戻す。

「久しぶりですね、ゆっくり夜空を眺めているのは」

「……そういえば元の世界ではよく眺めていましたね」

そんなことも知っていたのか、という驚きはほとんどなかった。
この世界に来て、鈴木さんは私が想像するよりもずっと私のことを調べていたし、知っていた。

元の世界では、自分の部屋のベランダから星空を見るのが好きだった。
自分を見てコソコソ笑う人もいない。
自分のことを悪く言う言葉も聞こえない。
ただ静かでどこまでも広がる暗闇を見ていると、昼間の辛さが和らぐような気がして落ち着いた。

「……私、」

ちらっと鈴木さんを見る。彼は私を見ているのかと思っていたけれど、彼もさっきの私と同じように夜空を見ていた。

「千枝に謝っていなかったなって、今更ながら気づきました」

わずかに速くなりつつある鼓動を落ち着かせるために大きく息を吸うと、生ぬるくも新鮮な空気が全身を駆け巡った。

「避けられてでも、嫌われても、彼女に対してしてしまったことにきちんと謝るべきでした。謝りたいと思いつつ、彼女が振り向いてくれるまで私は話しかけませんでした。でも、本当は、文面ではなく直接謝って、誤解だと説明するべきだった。そして……伝えるべきでした。『私はまだあなたと仲良くしたい』と」

今日、友梨ちゃんが私にしてくれたように。
仲直りをしたいのなら、待っているだけではなく、自分から直接話しかけるべきだった。
当たり前のことが、私はできていなかった。

「……元の世界に戻ったら、千枝さんと仲直りがしたいですか?」

鈴木さんは風によって壊されたセットされた髪の毛を片手でかき上げた。

「わかりません」

正直に答えると、鈴木さんは黙って私を見つめた。
この人は時々、驚くほど真っ直ぐ私を見る。
何のフィルターもバリアも通さない、本当に真っ直ぐに。