きみがいる、この世界で。


二人が親しげに話している姿を見ると、心がモヤモヤしてしまう。
だから極力、二人が一緒に笑い合っている姿を視界に入れないようにした。
同じ空間にいながら見ないようにすることはなかなか難しく気疲れもしたけれど、二人を見て心が不安定になってしまう方が辛かった。

阿部くんに「やっぱり石川と喧嘩したの?」と聞かれたのは、翌日、彼が朝練を終えて教室に来てすぐだった。

「喧嘩?」

「喧嘩っつーか、石川が嫌なことした?」

「どうして?」

「んー、なんか昨日電話したんだけど、いつもペラペラ話すのに全然話さなかったから、何かあったのか聞いたんだよ。そしたら『涼音ちゃんに嫌われたかも』って」

「……そんなことないよ」

彼女は何も悪くない。むしろこれは、私の問題で。

「そうかあ?」

阿部くんは、勢いよく、部活のバッグを机の上に置く。

「石川さ、ちょっと距離感が近すぎるっつーか、馴れ馴れしいところあるだろ。でも悪い奴じゃないから許してやってな」

「……それはわかっているよ」

そんなこと出会った頃からわかっている。
だって私はその彼女の接し方にすごく救われたのだから。
ある日突然この世界にやってきて、不安と孤独で押しつぶされても仕方がない。
けれどそうならなかったのは、初めて出会った時から、彼女が距離を感じさせない接し方をしてくれたからだ。
阿部くんが言うように、人によっては彼女の態度をしんどく思う人もいるだろう。

でも私は救われた。

「それならいいんだけど」

阿部くんはそれ以上何か言うことなく、前を向くと、机に突っ伏した。