きみがいる、この世界で。


一気に疲れが押し寄せてきた。椅子に座って深くため息をつく。
さりげなく彼女たちの方を見ると、ちょうど友梨ちゃんが教室を出ていくところだった。

「あの、阿部くん」

控えめな声で呼びかける。

もしかしたら聞こえなかったかもしれない。そうだったら呼びかけたことは無しにしよう。

心の中で勝手に誓いを固めた時、「なに」とお世辞にも愛想が良いとは言えない声が返ってきた。


「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「『ダメだ』って言ったら聞かないわけ?」

「……諦める」

私の答えに、阿部くんは「冗談だって」と振り向いた。

「阿部くんは、嫉妬とかしますか?」

「嫉妬?」

切長の目をまんまるにする。よほど私の質問が予想外だったのだろう。

「しない」

「ですよね……」

そんな気がしていた。

それは友梨ちゃんへの思いが軽そうとか真剣じゃなさそうとかではなく、彼の言動や態度から、彼がまっすぐな性格であることには気づいていた。
そもそも友梨ちゃんが自分以外の誰かに”好意”のベクトルを向けることを考えたことがなさそうな気がする。

「何、誰かに嫉妬でもしてんの?」

「いや、うーん……嫉妬かわからなくて。だから嫉妬したことがあるのなら、これが嫉妬か教えてもらおうかなと」

「そんなの俺じゃなくて石川に聞けばいいじゃん。恋愛話は絶対俺より石川の方が向いてんだから」

「……ですよね」

阿部くんの言う通りだった。ただ友梨ちゃんには聞けない。
だって、もしこの感情が、その所謂”嫉妬”と呼ばれるものだったら、その嫉妬している相手は友梨ちゃんなのだから。
相談して「誰に嫉妬しているの?」と聞かれたらうまく誤魔化すことができる自信がない。
ましてや「あなたに」とは、絶対に言えない。

「石川には内緒の話なの?」

「え?」

「お前ら仲良いじゃん。石川には離さずに俺に相談するってことは、石川には話せないことなのかと思ったけれど」

「……そんなことは」

ない、とも否定できず、かといって肯定することもできず、ただ黙る。阿部くんは察しがいいのか、それ以上何かを探るわけでもなく、前を向いた。