きみがいる、この世界で。

「おお、ハンバーグだ!!」

先に一口食べた友梨ちゃんは、明るい笑みを見せた。

ハンバーグはタネの時点で十分に空気が抜けていなかったからか、フライパンの中でひっくり返すと、ヒビが入ってしまった。
ただ、味はしっかりしていて美味しかった。
「適量」の意味がイマイチわからなくて少し多めに塩胡椒を入れてしまったのがよかったのかもしれない。

「空気だけしっかり抜けば、完璧だね?」

「すごくおいしい、これなら自信を持って阿部くんに渡せるよ」

友梨ちゃんはもう一度満足げに笑う。
ハンバーグを焼いている隣で作った、ハンバーグと一緒にお弁当に入れる予定の卵焼きをお箸でつまむ。
噛むと、少し甘めの、優しい味が口いっぱいに広がった。

「卵焼きも美味しい……!」

「本当? それならよかった」

お腹いっぱいになって一息ついた時、リビングの端に、長方形の四角い機械が置かれているのが視界に入った。

「あれって、もしかしてピアノ?」

ハンバーグの最後の一切れを口に入れた友梨ちゃんは、二、三度縦に首を振った後、ハンバーグを飲みこんでから「そうだよ」と頷いた。

「友梨ちゃん、ピアノ弾くの?」

「ううん、全く。親が『女の子だからピアノが弾けると良いんじゃないか』と思ったらしく、習わされていたんだけどね。リズム感?が全くなくて、先生にも呆れられるほどだったから、1年習ってやめちゃった。もうずっと弾いていないよ」

「そもそも右手と左手で違う動きをするとか難しいよねえ」と言いながら、友梨ちゃんはピアノの脇に置かれていた本棚から、当時使っていたというレッスン本を取り出した。

「このあたりだったかな、もう忘れちゃったけど。ペダルを使う曲に憧れていたんだけど、そこに到達する前にやめちゃったよ」

一緒に本に掲載されているレッスン曲を見ていると、玄関のドアがガチャッと音を立てた。
突然の物音に固まっていると、「お母さんかな?」と友梨ちゃんは首を傾げた。
「お母さん?!」

「うん、あ、大丈夫だよ、涼音ちゃんが来ることは伝えているから」

友梨ちゃんと話している間に、次はリビングのドアがゆっくりと開いた。
紺色のワンピースに白のジャケットを着た女性が立っている。
友梨ちゃんから「お母さんかな」と聞いていたけれど、聞いていなくてもわかるほど、友梨ちゃんととても良く似ていた。
特に、アーモンド型のぱっちり二重が。