「その、別の世界って、パラレルワールド的なものですか」

「パレレルワールドとは少し違います。あちらの世界には、あちらの世界の住人がいます」

「はあ……」

全くよくわからない。
全くよくわらかないけれど。

「お断りします」

「ええ、どうして!? せっかく選ばれた人しか行けないのに」

「どうしてって……行くことに私に何のメリットがあるんですか」

少しの沈黙の後、男の人は穏やかな笑みを浮かべて、静かに告げた。


「生きたい、と思うかもしれませんよ」


”生きたい”と思う? 今こんなに消えてしまいたいのに?

「今、あなたは生きるのを辞めたいと思っている。その決断は、試してみてからでもいいんじゃないですか。別世界を」

「それは……」

この男の人が言う、”別世界”に生きたいわけじゃない。
でも、この人がいう言葉にも、一理あるのかもしれない。

死なずにどこかに逃げられるのなら、それだけでいいのかもしれない。

「あの」

数分考え続けてから–いや、数分も経っていないかもしれないし、逆に10分ほど経っていたのかもしれない。

とにかく気がつくと、自然と口が開いていた。

視線を合わせると、男の人はふわりと笑った。まるで、この先の私の言葉がわかっているかのように。

「行かせてもらえますか。その、”別の世界に”」