きみがいる、この世界で。


明らかに悪意を持った言葉が音楽室に高らかに響く。
一瞬にしてざわめいていた音楽室が静かになった。

バカにするぐらいなら、伴奏者に推薦しないでほしかった。
私は幼い頃から目立つことが苦手で、本当は伴奏だってやりたくなかった。
そんな私の性格を知っていたはずなのに「いいじゃん」と推薦してきたのは紛れもない千枝だった。

彼女たちの言葉に、一気に手先が冷たくなった。
演奏の途中だったのに、指先が思うように動かない。

結局その日の授業はうまく演奏ができなくて、何度も合唱が中断してしまった。

「あんなに自己陶酔した演奏で下手とか、イタすぎて見てられないんですけど~」

音楽の先生が去った後、千枝が大きな声で言う。
陶山は千枝を「ありえない」といった様子で見た後、千枝に「最低だな」と吐き捨てた。
千枝は陶山が私を庇ったように思ったのだろうし、実際、陶山は庇ってくれたのだろう。

千枝は陶山の言葉に笑顔を引き攣らせた後、私を睨みつけ、それからそそくさと音楽室から出ていった。
彼女がいなくなってから、陶山はいつも通りの笑顔で「気にすんな、そもそも泉本以外ピアノを弾けるやついないんだから」と励ましてくれた。
けれど、彼女の一言は、「これ以上演奏したくない」という気持ちにさせるには十分すぎた。


そして私はあの日から、ピアノを一度も弾いていない。


***