きみがいる、この世界で。


次の日、寝坊をしてしまい、朝礼が始まる時間ギリギリに教室に滑り込む。
昨日の放課後に図書館でやろうと思っていた課題を家でしたところ、思いのほか進み、いつもは12時に寝るのに2時までやっていたのだ。
「あんまり眠たくないし明日の朝もいつも通り起きれそうだな」と呑気に思っていたら、そんなわけはなく、今朝は珍しくお母さんに「そろそろ起きないと遅刻するよ!?」と本気で叱られるまで起きれなかった。
そんな朝だったから、まだ頭は寝ている。
いつも以上にぼんやりと朝礼の時間を過ごすと、一限目が始まる前にある十分間の休み時間に、千枝と佳奈美が二人揃って席にやってきた。

「話があるんだけど」

千枝のいつになく低い声に、ドキッとした。

「廊下、来て」

何の話をする、と言われたわけでもないのに、二人の態度や雰囲気から、明るい話ではないことを本能的に感じ取る。
早足で席を去る二人に、吐き気を催すほどの緊張を感じながらついていく。
二人は事前にどこで話すのか決めていたのか、教室から少し離れた空き教室へ入ると、スマートフォンを操作して一枚の写真を見せた。

私と陶山が、肩を寄せ合いながらボールペンを選んでいる写真を。

「これ、どういうこと?」

「これは……」

喉がカラカラで声が掠れる。小さく咳払いをする間に、千枝は別の写真を見せた。

今度は、音楽室の窓を背にして、私と陶山が談笑している写真。

「何? 陶山と付き合ってたの?」

「そんな、違う、誤解だよ」

「誤解? 証拠写真もあるのに?」

「証拠写真って……。どっちも用事があって、少しの時間会っていただけだよ」

「用事? 二日も連続で?」

千枝は眉間に深い皺を作った。

「私が陶山のこと好きなこと知っているよね。知っていてこっそり二人で会うってどういうこと? 二枚目はまだしも、一枚目は学校の外で会ってるじゃん」

「それは、」

不意に、彼の言葉が蘇る。


『この話、みんなには秘密にしておいてくれる?』


「ほら、言えないことなんでしょ」

千枝は私を睨みつけと、吐き捨てるように言った。

「信用してたのに。親友の好きな人を奪うとか、最低だね」

大きな音を立てて教室を出ていく彼女の後ろ姿を目で追う。

否定しないと。誤解を解かないと。
頭の中ではわかっているのに、彼女の勢いに押されてしまって、動けない。

「涼音」

残った佳奈美の目を見て、もう私は彼女たちと親友ではいられないかもしれないと思った。
それぐらい、佳奈美の目は冷めきっていた。

「なにか事情があったとしても、これはダメでしょ。千枝が陶山のこと好きだってことも、千枝が陶山と涼音の仲を気にしていたことも、知ってたじゃん。知ってたのにこれはひどいでしょ」

佳奈美のいうことはわかる。だから何も言い返せない。

「最低だね。そんな人だと思わなかった」

千枝と同じように、佳奈美は吐き捨てるように言った。

大きな音を立てて閉められた教室のドアが背中で聞こえた。