「泉本、今はピアノ習っていないんだっけ?」
数回通しで練習をした後、「集中力が切れてきた」と鍵盤から指を離した私に、陶山は「ちょっと休憩でもするか」と提案した。
リフレッシュがてら、演奏中は閉めていた教室の窓をいくつかあけると、一気に涼しい風が流れ込む。
「習ってないよ。この前の3月に辞めちゃった」
「どうして?」
「通えなくなったの。4月から水曜日の放課後に英語の特訓授業が始まったでしょ? 3月まではあの時間にレッスン通ってたんだ」
「なるほどな」
「他の曜日に変えてもよかったんだけど、あくまでピアノは趣味だし、楽譜があれば大体の曲は弾けるから、もういいかなって」
陶山は私を見ると「ピアノが趣味ってかっこいいな」とニカッと笑った。
「それより陶山、今日は部活休んでよかったの?」
ちょうど音楽室の窓からは、運動部に所属する部員たちが部活に励んでいる姿が見える。
もちろんサッカー部も。
「うん。今日、自主練だったから」
「なるほど。サッカー部、大変そうだよね。ほぼ毎日あるでしょ?」
「そうだな。基本的に火曜日と日曜日以外は朝練も放課後練もある」
練習がハードな分、入部したての1年生が夏までに辞めてしまうことも普通にあるようだ。
「その分、本当に頑張りたい奴だけが残るからいいんだけど、それでもちょっと寂しいよな」
今朝も同じポジションの1年生から退部することを聞かされたらしく、陶山は寂しそうに笑った。
それから少しの間、陶山の部活の話を聞き、私たちは練習を再開した。
5回ほど通した後、曲の始めと終わりを重点的に練習する。
「もう少しだけ」といいつつ何度か練習を繰り返すと、気がつけば外は薄暗くなっていた。
「これで明日はなんとかなりそうだな」
音楽室の鍵を閉めながら、陶山は満足そうに笑った。
「そうだね。合唱と合わせると少し狂いそうな気もするけれど、指揮とは合わせられそう」
「そっか。伴奏は合唱とも合わせないといけないから大変だな」
「そうだよー。だから陶山がしっかり指揮してよね?」
「おう、任せておけ」
陶山はドンと胸を叩いた。
