昼休みになっても、千枝はやっぱり元気がなかった。
チラチラと千枝の様子を伺いながらもいつも通り振る舞う佳奈美に合わせ、私も昨晩歌番組で見た、佳奈美が最近ハマっている男性アイドルグループの話を振った。
千枝もそれなりにアイドルが好きらしく、いつもこういう類の話をするとノってくるけれど、今日は黙々とお弁当を食べていた。
「……あのさ、涼音」
お昼ご飯を食べ終わり、佳奈美が英語の課題を仕上げるためにそそくさと自分の席へ戻った後、千枝は自分の手元を見ながら私の名前を呼んだ。
「どうしたの」
「あのね、私……」
俯く彼女を見つめながら続きを待ったけれど、少しの静寂の後、千枝は「やっぱり何もない」とヘタクソな笑みを見せた。
「何、気になるじゃん。どうしたの」
「ううん、やっぱり何もない。いいの、気にしないで」
千枝はランチバッグにお弁当箱をしまうと、「眠いから自分の席で寝るね」とだけ言い残し、席から立ち上がった。