「おはよ」

翌日、いつも通り教室のドアの近くに席がある千枝に挨拶をしてから自分の席へ向かう。

「……おはよう」

「どうしたの?」

「え?」

「体調、悪いの?」

いつもなら明るく返ってくるのに、今日は控えめというか静かというか、決して暗いわけではないけれど、それでも普段とは全く違う。

「ううん、大丈夫……」

「そう? しんどかったら教えてね。保健室、一緒に行くから」

「うん……」

やっぱりしんどいのかな。顔色も良くない。もしかしたら寝不足なのかも。
最近成績が伸び悩んでいるらしく、夜遅くまで勉強しているみたいだし。

「本当に大丈夫?」と聞こうとした時、少し離れた席から、佳奈美に「涼音~助けて~」と呼ばれる。

「おはよ、どうしたの」

「どうしたのも何も、英語の課題が終わらない」

「ドラマ見ながら寝落ちしちゃった……」としょんぼり呟く。

「大丈夫大丈夫、提出は午後だし。今回そんなに量多くなかったよ」

「本当? 間に合うかなあ」

「そこは、間に合わせるの。ほら、手、動かして」

「は~い」

佳奈美の前の椅子に座りながら教室を見渡すと、こっちを見ている千枝と目が合ったはずなのに、ふと逸らされる。

「……ねえ、佳奈美」

「何、あ、やばい、この問題飛ばしてた」

「……」

午後の英語の課題提出が終わってからも千枝の様子が変なら、その時佳奈美に相談しよう。