翌日、終礼が終わり、部活に行く千枝を見送ってから、陶山と待ち合わせをした文房具屋さんに向かう。
学校を出る時、校門のところで女子たちーおそらくサッカー部のマネージャーたちだーに囲まれていたし、しばらくはまだ来ないだろうな。
それにしても、彼は本当に男女ともに人気がある。
まあ、外見も良く、スポーツも出来る、性格も明るく爽やかとなれば、人気じゃない理由を見つける方が難しいんだろうけれど。
先に商品の下見でもしておくか、と思いながら、お店の前にあるエスカレーターを降りると、
「あれ、陶山?」
まさか彼の方が先に来ているとは思わず、かなり驚いた。
「お、泉本。ごめんな、放課後に」
「ううん。もう着いていたんだ?」
早かったね、という私の言葉に、陶山は「俺の用事についてきてもらってんのに、俺が遅れる訳にはいかねーだろ」と爽やかに笑う。
「それより、なんか悪かったな。俺が昨日頼み込んじゃったから、断りづらかったよな」
本当は困ってただろ、という彼の言葉に「別に困ってないよ。どうして?」と聞き返す。
「いや、わざわざ店で待ち合わせしようなんてさ。嫌だったのかな、って」
「あー、それは違う。うん、違うよ」
「終礼が終わったらすぐに行ける? 一緒に行こうぜ」とわざわざ席にまでやってきて聞いてくれた陶山に、「お店で待ち合わせしない?」と提案した。
陶山と一緒に出かけることは面倒でも嫌でもなかったけれど、それを誰かに知られるのは、正直困ることだ。その”誰か”にはもちろん千枝も含まれるけれど、千枝以外にも陶山に好意をよせている人がたくさんいるのは知っていたし、「放課後、陶山と二人でどこかに行く」ということを知られるだけで、噂の的になることは容易に想像できた。
「モテる陶山と出かけるとみんなに睨まれるから」と素直に理由を告げると、陶山は「なんだそれ」と明るく笑った。
「そんなこと言ったら、俺だって泉本と出かけたことがバレたらきっと睨まれるよ。少なくとも同じクラスに2人はいるぜ、睨んでくるやつ」
「絶対嘘じゃん」
「本当だって。俺、名前言えるもん」
「本当かなあ」
「俺に対する信頼が全くないなあ……」
下校時間だからか、店内は近くにある別の高校の制服を着た女子高校生たちで少し賑わっている。
「同じ高校の奴らがいなくてよかった」と胸を撫で下ろしつつ「入りにくいな」と顔を顰める陶山の背中を押し、お目当ての商品が置かれている場所を探す。