「ねえ、陶山からの相談って、何だったの?」

次の休み時間、授業が終わるや否や、千枝が私の元へ”飛んで”来た。

「あー、あの、あ、」

そこまで言いかけて、「この話、みんなには秘密にしておいてくれる?」と言われたことを思い出す。

「まあ、なんていうか、なんでもないよ」

「なんでもない~?」

千枝に不満そうに「なんでもないって何?」と聞き返される。

「特になにもなかったよ」

「”特になにもない”のに、涼音を呼び出したわけ?」

「それなら何を話したの?」と千枝に詰め寄られる。これではまるで、警察官から取り調べを受ける容疑者だ。

「いや、まあ、家族のこと」

「家族? 家族のことを涼音に相談するの?」

その口調からは「家族のことを話すぐらい仲が良いの?」と伝わってくる。

ああ、もう。私と陶山の間には何もないって、中学1年の時からクラスが同じだけのただの腐れ縁だって、何度も言っているのに。
このやりとり、もう何度目なんだろう。
千枝が陶山のことを「好きになった」と教えてくれてから半年間、毎日とは言わないけれど、二日に一度は何かと陶山との関係を疑われている気がする。

普段の千枝は明るくて面白くて大好きなのに、恋愛絡みになるとすっかり別人だ。

「お母さんのことで話したいことがあったみたい。私、陶山のお母さんと知り合いでしょ? だから私に相談したんだって。お母さんのことを知っているのが私しかいないから、だから私が呼ばれただけだよ」

私の返事に千枝は少しの間黙った。そして「そっか」とポツリと呟き、自分の席へ戻っていった。