「何? 忙しい?」
「いや、うーん、まあ」
「あ、面倒だって思ってるんだろ」
「違うよ、そんなことない」
「それなら頼むよ。お礼に何か奢るからさ」
本当に全くわからないんだって、と頼み込む彼に折れ、「わかったよ」と答える。
千枝のことを思うと、できるだけ二人で出かけたくはない。
ただ、陶山に至っては、5年の仲だ。同級生のどの男子より付き合いが長い。
何より5年間も同じクラスだと、例え些細なことだとしても、助けてもらったことがたくさんある。私が日直の時に一緒に黒板を消してくれたり、ノート返却を手伝ってくれたり、代わりにゴミ捨てをしてくれたり。
「明日とかどう? 部活ないんだけど」
「明日か……あ、明日いいじゃん、明日にしよ」
明日は千枝が所属しているソフトボール部の部活がある日だ。2人でいるところを見られる可能性は限りなく低い。後ろめたい気持ちを感じつつ、いくなら明日しかないとも思う。
「あー、マジで助かった。ありがとうな」
「ううん、確かに悩むよね。特に異性へのプレゼント、ってなると」
「私もお父さんにプレゼント、ってなったら、ネクタイしか思いつかないもん」と正直に言うと、私の答えに陶山は「だよなあ、難しいよなあ」と明るく笑った。
「あ、そうだ」
教室に向かって歩き出した時、陶山はピタリと足を止めた。
「この話、みんなには秘密にしておいてくれる?」
「秘密?」
「うん、なんだか母さんの誕生日プレゼントで悩んでいるって知られるの、恥ずかしい。というか絶対に知られたくない」
「なにそれ」
別に恥ずかしいことでもカッコ悪いことでもないんだけどなあ、と思いつつ「わかったよ」と返す。きっと男の子には、男の子にしかわからない”恥ずかしさ”があるんだろう。
「やっぱり泉本だわ。マジでありがと」
「ありがとう。でも褒めてもなにも出てこないよ?」
「あ、それは残念」
陶山は悪戯っぽく笑った。