「……陶山、やっぱり涼音のこと好きなのかな」
陶山が元いた場所へ戻った後、千枝は彼の後ろ姿を見ながらポツリと呟く。
「だから違うって。腐れ縁だから、話しやすいんでしょ」
「涼音と陶山って、5年間同じクラスなんだっけ?」
紙パックに入った紅茶を飲んでいる佳奈美に「そう」と短く答えると、「5年間ってすごいよね~」とのんびりとした口調で返事がくる。
「お互い小学校を卒業した直後のお子ちゃまの時から知っているんだもん。今更恋愛感情はお互い湧かないって」
私たちの学校は中高一貫校で、高校から入学する生徒もいるけれど、9割ほどは中学から通っている。
そして私と陶山は、中学1年生の時から今の高校2年生まで、ずっと同じクラスだ。
”かっこいい”とよく騒がれる陶山。
でも、私は、知っている。
中学1年生の時、よく忘れ物をして担任の先生に怒られていたことも、日焼けしやすい体質から同級生数人に「黒人みたい」と囃し立てられて彼らを殴りそうになってしまったことも、サッカーの試合で負けて鼻水を垂らしながら悔し泣きしていたことも。
”かっこよくない”彼を、私はたくさん知っている。
「……でも、腐れ縁って、ある意味特別じゃん」
「そんなに気になるなら、どうしてさっき『いいよ』って返事したの? 断ろうと思っていたのに」
「だって陶山のお願いだもん、断れないよ」
「なにそれ」
断ってくれた方がよかったのに、という言葉は、お弁当に入っていた最後のおかずと一緒に飲み込んだ。