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譜面をみながら、脳内でピアノの音を再生する。
つられるように右手が動いた時、お箸でつまんでいたミニトマトがポトッとお弁当の中に落ちていった。
「ほーら、また聞いてない」
もう一度ミニトマトをつかもうとした時、呆れた声が隣の席から聞こえる。
「もう、昼休みぐらい楽譜から離れてよ」
口を尖らせながら私を見つめる千枝に「あのねえ」と真っ直ぐの視線をむける。
「誰のせいでこんな面倒に巻き込まれたと思ってるのよ」
「さあ、誰でしょう」
私の問いかけに千枝はペロリと舌を出して、おどけてみせる。
「いいじゃん、涼音、ピアノ上手いんだから」
「私より上手い人が絶対他にいるじゃん!」