【音の無い世界って、どんな感じなの?】
地面を打つ雨の音。
窓ガラスを叩く風の音。
お鍋の中で沸騰する水の音。
通知を知らせるスマートフォンの軽快な音。
「向日葵畑へ行こう」と音楽室で誘った時、高橋くんは確かに、私と彼は違う世界にいるということを明確に示した。
だから知りたかった。
世界にはたくさんの音で溢れていて、
高橋くんが言う、彼が居る音が存在しない世界はどんなところなのかを、知りたかった。
高橋くんは少しだけ考える素振りを見せた後、【深い海の底にいる感じかな】と答えた。
【何も聞こえない。誰もいない。本当に自分一人しかいない感じ】
高橋くんは【うまく言えない】と困ったように笑った。
【ごめんね、こんな話、聞きたくなかったよね。ごめん】
【ううん、困らないよ。だって】
自分から誰かに話す日が来るとは思わなかった。
【私もね、前にいた学校でいじめられていたの】
私の言葉に、高橋くんは鋭く息を飲む。
【その話、俺が聞いてもいいの?】
【聞いてくれるなら聞いてほしい】
【無理していない? 俺が話したからって、話さなくていいんだよ】
【無理してないよ。高橋くんだから、話したいって思ったんだよ】
彼の返事を見て、私は速くなった鼓動を静めるために息を大きく吸う。
2ヶ月少し前のある日、私は中学生の時からずっと仲の良かった親友2人を失った。