【無視される理由もないし、『気づいていないのかな』と思って、そばに寄って行って声をかけたんだ、『久しぶり』って。でも、迷惑だったみたい】

【迷惑……?】

【うん。一緒にいた友達に『何言っているのかわからない』って笑われたのがわかった】

そんな……。
そんなひどいこと……。

【ずっと話していなかったから、俺が口の形から読み取れるっていうこと、忘れていたのかな。でも、俺は俺で、耳が聞こえなくなってから多くの他人が自分のことをどう思っているのかわかるようになっていて……そしてこういう時に限って、はっきりわかっちゃうんだよね。それから、俺はどうしたらいいかわからなくて立ち尽くしていたんだけど、そいつはあっという間に友達とどこかに行っちゃった。聞こえなくなってから諦めたことってたくさんあったんだ。音が聞こえなくなって、一人だけ世界から追い出されたような気持ちにもなった。でもね、変わらず接してくれる人がいたことで、まだ世界と繋がっているんだ、世界と繋がっていていいんだ、って思っていたんだけど……その瞬間、本当に一人ぼっちになった気がした】

高橋くんは顔をあげると、切なくて、今にも消えてしまいそうな笑みを浮かべた。

【自分は他の人と違う音のない世界で生きているんだってわかっているはずなんだけどね。どうしてもあの日の夢を見ると、自分は一人なんだって思い知らされて、辛くなっちゃう】


聞いて良いことなのか、完全に自信は持てなかった。
他の人が相手なら、聞いていなかった。

でも、相手は高橋くんだ。

この世界に来てから一緒に過ごしてきた時間が確かにあって、
この質問をしても、彼との仲が険悪になることはないということはわかっていた。