【それなら尚更何か作るよ。冷蔵庫の中にある食材、使ってもいいかな?】
【ないんだ】
【ない?】
【自分でご飯作らないから、冷蔵庫の中、空っぽ……】
彼の言った通り、冷蔵庫の中は本当に空っぽだった。中に入っているのは、一口チョコレートと中身がほぼ無い牛乳だけ。
【ごめん……】
【何が”ごめん”なの。勝手に家に来て勝手にご飯作るって言っているのは私だよ。それよりもう寝て? ご飯できたら起こすから】
まだ顔が赤いから、きっと熱があるのだろう。スポーツドリンクももっと買ってきた方がいいかな。
【しっかり寝た方が早く治るよ】と言って、ソファーではなく、寝室に彼を連れて行く。少し強引にベッドに寝かせると、高橋くんはもう抵抗しなかった。
【申し訳ないんだけど、家の鍵だけ借りてもいい?】
【うん。玄関の靴箱の上に置いているから使って】
【わかった、ありがとう】
駅から来る途中にあったスーパーで食材を買って、家に戻る。高橋くんは言っていた通り、全く料理をしていないのだろう。コンロの下のキャビネットの奥から一人用の土鍋(箱に入ったままだったから、きっと一度も使っていない)を出して、卵雑炊を作った。
スーパーに行ったついでに買ってきた風邪薬と一緒にお盆に乗せ、寝室へ運ぶ。
……寝ているかな。寝ているのなら起こさない方がいいのかな。
ゆっくりと寝室のドアをあけると、荒い息遣いが耳に入る。慌ててかけよると、高橋くんの目からは涙がこぼれ落ちている。