「高橋くん!!」

慌ててかけよる。

『大丈夫!?』

覚えたばかりの手話で尋ねると高橋くんはぎこちない笑みを浮かべながら頷き、「入って」といいわんばかりに手招きをした。

「おじゃまします……」

玄関には、学校指定のローファーと、遊びに行った時にはいていたスニーカーしかない。ご両親は不在なのかな……。

てっきりファミリー向けの部屋に住んでいるものだとばかり思っていたのに、高橋くんが住んでいるのは、私が今滞在している部屋と広さが変わらない、1LDKの部屋だった。
最低限の家具しか置いていないのか、リビングはガランとしていて、生活感がなかった。
高橋くんはソファで寝ていたのか、ソファの上には掛け布団が、サイドテーブルには空になったペットボトルが置いてある。

【汚くてごめん】

ソファの方をジッと見ていたからか、高橋くんは縮こまりながら私を見る。

【ううん、それより寝てたんでしょ、寝て?】

メッセージを送ると同時に、高橋くんのお腹がグーッと大きな音で鳴った。
本人に音は聞こえていないはずだけれど、お腹が鳴ったのはわかったのだろう。高橋くんはカッと顔を赤くした。

【キッチン、使ってもいい? 何か作るよ】

彼からの返事の前に、重ねてメッセージを送る。高橋くんは大きく首を横に振った。

【大丈夫。水、飲むから】

【水だけだとお腹いっぱいにならないでしょ? それともすぐに親が帰ってきてくれる?】

【ううん。今、海外にいるから】

【お母さんが?】

【お母さんも、お父さんも】

そうなんだ……。

【仕事の関係で、ほとんど日本にはいないんだ。親には『海外に来い』って言われているんだけど、耳が聞こえない、言語もわからない、だと不安すぎるから。わがまま言って俺だけ日本で生活させてもらっている】

なるほど、それでこの単身用の部屋に住んでいるんだ。