「ねえ、馬鹿にしてんの?」
振り向くと同時に、千枝は私を睨みつけながら言い放つ。
あまりの声の大きさに、ヒュッと鋭く息を呑む。
「嫌がらせのつもり? 本当に性格悪いよね」
「何、が」
「陶山のこと」
真っ赤な顔をしたまま、千枝はスマホを操作すると、私に画面を見せる。
そこには、中庭のベンチに並んで座り、お弁当を食べている私と陶山が写っていた。
「これ、どういうこと?」
「どういうこと、って」
「どうして陶山と一緒にいるの?」
「それは」
元を言えば、陶山が「相談をしたい、気分転換をしたい」と誘ってくれたからだった。
でも、この理由は言えない。
「誰にでも言える話じゃない」と言っていたし、その気持ちはとてもよくわかるから。
黙ってしまったことに余計に腹を立てたのか、千枝は私の背後にあるロッカーを蹴った。
更衣室中に響いた大きな無機質な音に、周りにいた女子生徒たちがこちらを見る。
「まさか付き合ってるんじゃないよね?」
「付き合ってない」
「それなら何? やっぱり嫌がらせ? 私が好きだって知りながら、陶山に近づいてんの?あの時から何にも変わらないよね。どうせずっと私のこと、心の中で嘲笑ってたんでしょ。『敵わない恋をして可哀想』って」
「そんな、そんなんじゃない」
「じゃあ、どういうこと!?」
千枝はガシガシと頭を掻きながら、大きく舌打ちをする。
不意に滲んだ涙を堪えるようにうつむきながら小さく深呼吸をすると、「マジでムカつく」と憎しみのこもった声が降り注いできた。
「ねえ」
千枝は真っ直ぐに私を見つめると、辛辣に言い放った。
「もうお願いだから、消えて。一生学校に来ないで」