どうしよう、どうしよう、と考え続けている間に、あっという間に放課後になった。
私が送ったメッセージに、まだ既読の印はついていない。

心配だな……。
まだ高熱が続いているのかな……。
様子、見に行きたいな……。

幸い彼の家の最寄駅は知っている。
最寄駅まで行ってみて、それでも連絡がなければ帰ろう。

「アイス持っていってあげたら喜ぶんじゃない?」という友梨ちゃんの一言も背中を押して、私はいつもとは違う方面の電車に乗った。

【遅くなってごめん。アイス、買ってきたよ。家まで持っていくから住所教えてくれるかな?】

まだ帰宅ラッシュの時間と被っていないからか、車内はすいていた。
座ろうかな、と一瞬思ったけれど、なんとなく落ち着かず、電車のドアにもたれながら立つ。
車内の空調設備から出た強めの冷風が、右手に持ったビニール袋にあたり、カサカサと音が鳴る。
中には、電車に乗る前に買った、カップのバニラアイスとチョコレートアイス、そして1本のスポーツドリンク。
アイスが溶けないか心配だったけれど、これほど涼しければ大丈夫だろう。

結局高橋くんから返事が来たのは、彼の家の最寄駅に着く2つ前の駅に停車している時だった。

結論から言えば、朝・昼と熱が高くぼーっとしていて、母親とメッセージのやりとりをしていると思っていたらしい。
【アイス、食べたい】というメッセージも、自分の母親に「買ってきてほしい」と伝えたかったのだ、と。

【風邪をうつすと悪いから】という彼に【近くまで来たし、アイスも買ったから、迷惑じゃなければ渡しに行ってもいいかな?】と尋ねると、高橋くんは【本当にごめん】と何度か謝罪の言葉を記した後、家の住所を送ってくれた。

高橋くんの家は、駅から10分ほど歩いたところにあるマンションの6階だった。
エントランスに入りインターホンを鳴らす。
もしかすると高橋くんのお母さんが出てくるかもしれない、と今更ながら少しだけ緊張する。
1分も満たないうちに、ドアは無言で施錠が解除された。

エレベーターを降りると、ライトグレーのタイルにダークグレーのドアが並ぶ、おしゃれな通路が現れた。

家賃高そうだな。高橋くんのおうち、すごくお金持ちなのかな。


エレベーターを降りて一歩目を踏み出した時、少し先にある家のドアがゆっくりと開く。

その隙間から、顔色の悪い高橋くんが現れた。