翌日、なかなか目の腫れが引かなくていつもより遅く学校に行った。
教室に入り、何気なく左を見る。すると、宿題をしていたのだろうか、ノートにシャーペンを走らせていた彼が、ふと顔をあげた。

「おはよう」

口を動かした私に、高橋くんも「おはよう」と同じように口の動きで挨拶を返してくれた。
荷物を持ったまま、彼の元へ行き、まだ登校していない彼の前の席の人の椅子に腰掛ける。

【昨日、ありがとう】

【恥ずかしいところ見せちゃったね】という言葉に、高橋くんは大きく首を横に振った。


その後、自分の席へ向かう。
友梨ちゃんは既に登校していて、スマートフォンを操作しながら隣の席の男子生徒と談笑している。

「おはよ、友梨ちゃん」

一瞬だけ自分の中で緊張が駆け巡ったけれど、自然にできたと思う。
友梨ちゃんはいつも通りの笑顔で「おはよ~」と返してくれた。

「これ、よかったら」

カバンの中からビニール袋を取り出す。学校に来る途中、コンビニで買ったもの。友梨ちゃんが好きで、よく食べているチョコレート。


『泉本さんが親切で優しいことを知っていると思うよ。だからその人も、泉本さんに親切にしてくれるんだと思う』


昨日、高橋くんがくれた言葉がずっと胸に残っていた。

正直、自分が優しい人間だと思ったことはない。
どちらかというと、今でも自分は”嫌な奴”なんじゃないかと思う。
でも、私は友梨ちゃんにとって、”嫌な奴”じゃなくて”優しい友達”でいたかった。
だから願うだけじゃなくて、そうなるための行動をしようと思った。その行動が合っているかどうかはわからないけれど。

「昨日、カフェ連れて行ってくれたお礼。あそこのミックスジュース、本当に美味しかったから」

「ええ、そんなことで!? そんな、そもそも私が誘ったんだし、よかったのに」

友梨ちゃんは元々大きい目をさらに見開くと「でも嬉しい、ありがとう」と、いつもよりとびっきりの笑顔を見せてくれた。