【それならよかった。でも、もし何か話したいことがあれば、話してね。俺でよければ、話、聞くから】

【今日、】

聞いてほしいと思った。彼の言葉に甘えたいと思った。
語って聞かせるほどかっこいい話ではないこともわかっていた。

普段なら「ありがとう。でも大丈夫だよ」と返すところだ。
それでも今日は、よほど心が疲れていたのか、逆に甘いものを食べて少しだけ前向きになれたからか、それとも別の何かがそうさせたのかがわからないけれど、高橋くんに話したいと思った。

【自分がね、すごく”嫌な奴”に思えちゃった。転校してきてからずっと親切にしてくれた人に、ひどいことを言ってしまった】


いつか乗り越えられるのだろうか、親友からひどい言葉を投げかけられた過去を。
友梨ちゃんは私に優しくしてくれた。ひとりぼっちで過ごすことを想定した中で、すぐに話しかけてくれた。
そんな思いやりのある彼女には、優しさだけで接したいのに、どうしても乗り越えられない過去が邪魔をする。

鼻の奥がツンとした。
鼻を啜りながら下を向いた時、手に持っていたスマートフォンにメッセージが表示された。

【無責任なことは言えないけれど、きっと大丈夫だよ】

”大丈夫”

何の確証も無い言葉なのに、その文字を見た瞬間、胸がいっぱいになった。

【俺に初めて話しかけてくれた日、俺は逃げてしまったのに、泉本さんは怒るどころかまた話かけにきてくれたよね。俺、あの時、泉本さんのこと、本当に優しいんだなって思った。その傷つけてしまったかもしれない人も、泉本さんが親切で優しいことを知っていると思うよ。だからその人も、泉本さんに親切にしてくれるんだと思う】

じわじわと目の奥が熱くなる。

元いた世界で身近にいる人から傷つけられたのは、私が”嫌な奴”だからだ、と思っていた。
嫌な言葉を投げつけられるのは、私には”嫌なところ”しかないからだ、と。

でも、自分のことを”優しい”と思ってくれている人がいた。
自分は生きていてもいいのだと思えた。

【高橋くんは、忘れたい過去はある? 忘れたいのに忘れられない過去ってある?】

【あるよ】

あまりにも即答するものだったから、質問をした私が驚いてしまった。

【消えたいと思うほど辛かったことがある。その時は実際、消えようとした】

”消えようとした”

彼の言葉が、何を意味しているのかがわかった。
それは私も、同じように考え、行動しようとしたことがあるから。

おずおずと彼に視線を移す。