それから二時間少し話をして、私たちはカフェを出た。
カフェに来た時は真っ青だった空が、群青色に染まり始めていた。
「また明日学校でね?」
「うん、今日はありがと」
私が住んでいる所と友梨ちゃんの家は、カフェの駅を挟んで正反対の方向にある。
改札口で手を振って別れ、一人でホームに着いた瞬間、忘れかけていた自己嫌悪感がドッと押し寄せてきた。
どうしてあんなこと、言っちゃったのかな……。
友梨ちゃんが私を「人の好きな人を横取りする人だ」と思うような人じゃないことはわかっていたはずなのに。
そんなことを思う人じゃないことを知っていたはずなのに。
転校していた初日から、フレンドリーに話しかけてくれた友梨ちゃん。
他に仲の良い友達もいるのに、何かと気にかけて、一緒にいてくれる友梨ちゃん。
友梨ちゃんは阿部くんのことを「気遣いができる優しい人だ」って言っていたけれど、それは友梨ちゃんだって同じだ。
「ああ、もう、嫌だな」
あんな言い方、友梨ちゃんの発言に怒ったみたいだ。
友梨ちゃん、気にしていないかな。
明日からも、今まで通り変わらず接してくれるかな。
ホームに滑り込んできた電車に乗り、座席の前に立つ。
視線を落とすと、同じ高校生だろうか、制服を着た男の子がうつらうつらとしている。
光にあたって、ほのかに茶色に染まった髪の毛が、彼を思い出させた。
そして思ってしまった。
高橋くんに、会いたい。
スマートフォンを操作して、SNSの連絡帳を開く。
登録している人数は少ないから、高橋くんの名前はすぐに見つかった。
【今、何している?】
送信ボタンを押そうとした時、このメッセージを送ってどうするんだ、と頭の中で疑問が浮かんだ。
私と高橋くんはただのクラスメートだ。会うには理由がいる。
その上、この時間に会うのなら、それなりの理由がいるだろう。
会いたい。
でも、理由がない。
友梨ちゃんに嫌な態度をとってしまった。嫌われてしまったかもしれない。
自分に優しくしてくれた人に嫌なことを言ってしまった。自分のことが嫌いで、消えてしまいたい。
これは”それなりの理由”なのだろうか。
もうすぐ乗り換えの駅に到着することを知らせるアナウンスが車内に流れる。
ため息をつきながら打ったメッセージを消して、スマートフォンの画面を閉じた。
電車を降りて、乗り換えのために隣のホームへのろのろと歩く。
もう一度大きなため息をついてから電車を待つ列の最後尾に並んだ時、左肩を叩かれた。
「高橋、くん……」
会いたいと思った時に現われてくれる、こんな偶然、あるのだろうか。
驚きで固まる私とは反対に、肩を叩いた本人はにっこりと笑っている。
その笑顔を見た瞬間、急に胸が詰まった。