「へえ? 本当に??」
「そんなことより、友梨ちゃんはどうして阿部くんのことを好きになったの?」
「えー、改めて聞かれるとなんだか恥ずかしいんだけど」
友梨ちゃんは、ほんのりと赤く染まった頬を両手で包む。
「高校1年生の6月末にね、電車の中で体調が悪くなったの。中学の時は家から学校まで歩いて通っていたから電車に乗り慣れていなくて普段から電車酔いしやすかったんだけど、その日は大雨で蒸し暑かったからかな、いつもなら酔っても耐えられるのに、その日は冷や汗が出た上に目まで回っちゃって、立っているのがとても辛くなったの」
友梨ちゃんは目の前にあるジュースに手を伸ばすと、ゆっくり口に運んだ。
「座りたかったんだけど、満員電車で身動きすることもできないし、周りに知っている人もいないから助けも求められないし。でも本当に立っているのが辛いし『どうしよう』ってパニックになりかけた時、阿部くんがね、人の間を縫ってそばに来て、声をかけてくれたの。『顔色が悪いけれど大丈夫ですか?』って」
「阿部くんはその時友梨ちゃんのこと知っていたの?」
「ううん、知らなかったみたい。お互い制服を着ていたから、同じ学校に通っていることはわかったみたいなんだけど」
「優しいね、阿部くん」
「本当に優しいよね。いくら体調が悪そうに見えても、知らない人に、その上満員電車で移動しにくいのに、なかなか声かけられないよね?」
それで、と友梨ちゃんは続けた。
「荷物を持ってくれて、『辛かったら寄りかかってください』って言ってくれたの。それで、降りる予定だった学校の最寄駅はまだ先だったんだけど、次に停車した駅で一緒に降りてくれて、近くにある薬局でスポーツドリンクと酔い止めを買ってきてくれたの。少しして、薬も効いてきたからか気分はマシになったし、何より遅刻しそうだったから、お礼を伝えて『もう行ってください』って言ったんだけど、結局その後も私の調子が戻るまで一緒にいてくれたの」
「じゃあ阿部くんも遅刻したの?」
「そう。『どうせ一限目は嫌いな英語だから』って言っていたけれど、期末試験も近かったし、本当は気遣って言ってくれたんだと思う」
「阿部くん、素敵すぎるよ……」
素直な感想を伝えると、友梨ちゃんは「そうでしょ」と嬉しそうに笑う。