月曜日、向日葵畑を教えてくれたお礼を言わないとなあ、と思いながら昇降口で靴を履き替えていると、「おはよう~」とちょうど頭の中で思い浮かべていた人の声が聞こえた。
「友梨ちゃん、おはよう、……ってなんだか眠そうだね?」
「うん、昨日遅くまでドラマ観ていてさ~、すっかり寝不足だよ」
憧れている女優さん(名前を知らないと言ったら、すごく驚かれた)目当てで見始めたというドラマの話を聞きながら教室へ向かう。
サスペンスドラマらしく、至る所に伏線が散りばめられていて、見れば見るほどハマってしまうらしい。
しばらくドラマに関する熱弁が続き、向日葵畑に行ってきた、と報告できたのは、朝礼の予鈴が鳴る数分前だった。
「へえ、行ってきたんだ。どうだった?」
「すごく綺麗だった。いっぱい写真撮ってきたよ」
昨日何度も見返した写真を友梨ちゃんに見せる。
「わー、綺麗だね! 私たちが行った時よりも満開だ」
「そうかも。とっても綺麗だった」
「いいなあ、誰と行ってきたの? 前の学校の友達?」
「えっと……」
言ってもいいのかな。
私と二人で出かけたことが周囲に知られたら、嫌な思いをしないかな。
チラッと彼の席を見ると、私たちが教室に入ったときはまだ来ていなかったのに、いつの間にか席に座っている。
「もしかして、高橋くん?」
「え!?」
「高橋くんと行ってきたの?」
「……うん、そう」
少しだけためらいながらも頷く。
そもそも向日葵畑の存在を教えてくれたのは友梨ちゃんだ。
その友梨ちゃんに隠し事や嘘をつくのには罪悪感をおぼえた。
「そうなんだー! やっぱり涼音ちゃんはさ、」
友梨ちゃんが何かを聞きかけたとき、予鈴と共に担任の先生が「おはよう」と教室に入ってきた。
「ねえ、今日の放課後あいてる?」
友梨ちゃんは顔だけ横を向けて、ちらりと私を見た。
「放課後?」
「うん、空いてたらカフェ行かない?」
恋バナしようよ、と友梨ちゃんはニヤリと笑った。
「私、話せるような恋の話持ってないけどいい?」
「えー、絶対そんなことないでしょ」
「本当だって」
担任の先生の話が始まり、友梨ちゃんは前を向く。
彼女の背中に「でもカフェは行きたい」とこっそり伝えると、友梨ちゃんは前を向きながら、右手で控えめにピースサインを作った。