【明後日か明明後日、一緒に出かけない?学校お休みでしょ】

自分らしくない。

ずっと親友でいると思っていた人たちから突然嫌がらせを受けるようになったあの日から、

もう、自分から交友関係を積極的に作るのはやめようと決めたのに、
もう、自分から誰かと深い関係を築くように働きかけるのはやめようと決めたのに、

それでも、どうしても高橋くんのことが気になる。
自分で決めたはずの約束をいとも簡単に破りたくなるほど、"そうさせる何か”が高橋くんの音楽には確かにあった。

高橋くんは、少しだけ首を傾けながら、自分を指差す。

ゆっくりと頷いた私に、高橋くんはわかりやすく不安と警戒が混ざった表情をした。

【どうして?】

【高橋くんのこと、もっと知りたいから】

【俺のこと知っても、何も面白くないよ】

高橋くんは困ったように笑う。

これは、自分を否定したくなる気持ちも、自分を無意味な存在だと思う気持ちも、そういうのを全てひっくるめてなんともないように振る舞うために作られた笑顔だということをよく知っているから、余計に辛くなる。

【私はもっと高橋くんのことが知りたいよ】

【でも俺、耳、聞こえない。話せない人と一緒にいても楽しくないよ】

彼の返事には、強い線引きが込められている気がした。
目と手を使って会話をする自分と、耳と口を使って会話をする私は、別の世界に住む人だ、と。
「こっちに来るな」と言われているような気さえした。

穏やかな雰囲気を漂わせながらも、ドキッとしてしまうほど強い主張をぶつけられる。

ほんの一瞬、競り負けそうになりながらも、

【今、私たち、話しているよ。ちゃんと話している。文字を使って話しているよ】

私の返事を、高橋くんはじっと見つめた。

少し長すぎる沈黙の後、【わかった。俺、週末、どっちも空いてるよ】と彼は返してくれた。

これは、良いってことだよね? 一緒に出かけてくれるってことだよね?

嬉しくて、勢いよく彼を見つめ返す。

高橋くんは「しょうがないなあ」と言いたそうに笑った。


【ありがとう! どこか行きたい場所ある?】

【泉本さんに任せるよ】

【わかった!!】

手でOKマークを作ると、あまりに張り切っていたことが伝わったのか、高橋くんは小さく吹き出した。