きみがいる、この世界で。


全速力で駅に戻り、学校へ向かう。九重壁に寄ってからの登校だけど、かなり早くに家を出たからか、校門から校舎へ続くまでの道に、生徒はまだほとんどいない。
今になって、この高校のどこに彼がいるのか、いつ来るのか、肝心なことを聞いていなかったことを思い出した。

さすがにこんなに朝早くにはまだいないか。そもそもどうしてここで会えるんだろう。
ここで会えるどころか、どうしてこの世界に彼がいるのだろう。
……彼も、世界交流体験をしに来た?それでこの高校に通うことになった?そんな都合のいいこと起こりうるのだろうか?

とりあえず一旦教室に荷物を置いて落ち着こう。
少しだけ心に余裕ができたら、本当はすごく疲れていることに気がついた。
教室へ着いたらゆっくりお茶でも飲もう。
それから彼を探そう。

はあ、と大きく息を吐きながら階段を登りはじめた時、

「この演奏……」

どこからとなく聞こえてきたピアノの音色に、ハッとする。

知っている。この演奏を、知っている。

ノクターン、第二番。
ショパンが残した楽譜よりも、ゆっくりめのテンポ。強弱が緩やか。楽譜にはないところで少しだけ力強く音が発せられる。

階段を駆け上る。

ありえない。
でも、この演奏をできるのは、私以外に一人しかいない。

私自身の癖と楽曲への解釈が反映された演奏を、ここまで忠実に再現できる人は、一人しかいない。

音楽室のドアを勢いよくあける。
あまりの大きな音に、少し離れた場所にいた一人の生徒が勢いよく振り返る。

けれど、ピアノを弾いている本人はこちらをみない。