「鈴木、さん……」
「お元気でしたか?」
鈴木さんは、驚く私とは正反対に、記憶の中にあるものと全く同じ穏やかな笑みを浮かべた。
驚きと動揺、でも久しぶりにお世話になった方に会えた喜びが一気に押し寄せてきて何も言えない私に、彼は「泉本さん」と真っ直ぐ私を見つめてから、ふわりともう一度微笑んだ。
「僕の仕事は、違う世界に住む住民を交流させて、より良い世界を作ることです。でも、それとは別に、仕事を行う上で、僕個人が大切にしていることがあります」
鈴木さんはカバンの中から一枚の紙を取り出す。
「勇気を持って世界交流体験に参加した人には、できることなら全員がとびっきり幸せな人生を送ってほしい。特に、自分がどうなりたいか、5ヶ月もかけて悩み、決断した人には」
目が合うと、鈴木さんはにっこり微笑んだ。
「泉本さん、今日は誰の誕生日か知っていますか?」
彼は、先ほど自分のカバンの中から取り出したメモを、私に手渡した。
そのメモには、見覚えのある住所が書かれていた。
「この住所……私の通っている高校のものですよね……?」
どうしてこんなメモを渡されたのか分からず、首を傾げる。
怪訝な表情をする私とは異なり、鈴木さんは穏やかにゆっくりと頷いた。
「僕からのクリスマスプレゼントです。もしその場所で、泉本さんにとって大切な誰かに会えたら、その人に伝えてください。『お誕生日おめでとう』と」
「それって……」
知っている。誰の誕生日か。
クリスマスに生まれたから、甘いものが好きなのかな。
そう柔らかく温かく笑う、私にとって特別な人の誕生日。
自己嫌悪に陥った時に、辛い時はそばにいると、優しく寄り添ってくれた人。
「会いに来る」「忘れない」力強く約束してくれた、大好きな人の、誕生日。
「うそ……そんなこと……」
力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまう。
「会えるんですか……彼に」
鈴木さんは私の質問には答えず、私と視線をあわせるように腰を下ろした。
「泉本さん。あなたは、自分を育ててくれた両親と、自分が想う大切な人、みんなと幸せになってください」
鈴木さんは今まで見せてくれた中でもとびっきり優しい笑顔を最後に見せてくれると、私に背を向けて歩き出した。
しっかりお礼を伝えたいのに、込み上げてくる熱い何かでうまく声がだせない。
「泉本さん!」
ぼやける視界の中で、鈴木さんが微笑むのがわかった。
「頑張れ!」
いつの日か彼がくれた「生きてくださいね」あの声が、もう一度頭の中に響いた。
