翌朝のクリスマス兼終業式当日、普段よりずっと早くに家を出た。
最寄駅に着いて改札を通り抜け、電光掲示板を見る。
ちょうど後2分で電車が来る。
ゆっくりとホームへ続く階段を登ると、ホームへ着いたと同時に、電車の到着を知らせるメロディーが構内に流れた。
いつもとは逆方面の電車に乗り込む。転校前の高校に通っていた時によく見ていた景色だ。
なんだかひどく懐かしい。
お気に入りの音楽を聴きながら久しぶりの景色をぼんやりと眺めていると、あっという間に目的地に着いた。
昨日もらったばかりのリングをはめた中指を、もう片方の手で包み込むようにしながらゆっくり歩いていく。
入口を通り過ぎると、ふわっと潮の香りがした。
「おはようございます」
早朝のランニングの途中に寄ったのか、ランニングウェアを着た若い女性の人から笑顔で声をかけられる。
「おはようございます」
「……お散歩ですか?」
彼女は私の姿を見て、ほんの少しだけ、爽やかな笑顔に曇りをみせた。
よく考えると当たり前だ。
こんな早朝に制服姿の女の子が一人、絶壁を訪れるのは珍しいだろう。
余程のことがあるのか、と思われたのかもしれない……例えば、5ヶ月前、私が九重壁を訪れたような理由とか。
「はい。近所に住んでいて、今日は早くに目が覚めたので学校前に散歩しに来ました」
少しだけ嘘をついた。散歩、というよりは、自分の気持ちの整理のためにやってきた。
でもいいだろう。きっとこの女性の心配を取り除く方が大切だ。それに早とちりされて警察なんて呼ばれたらたまったもんじゃない。
精一杯穏やかな笑みをみせた私に、彼女はほんの少しの戸惑いを含めながら「そう、ですか」と笑みを返してくれた。
「今日の九重壁、とても綺麗でしたよ。でも風が強いので気をつけてくださいね」
彼女は最後に優しい気遣いの言葉を私に残し、「それでは」とゆっくり走り出した。
