きみがいる、この世界で。


お母さんはその箱を、そっと私の目の前に置いた。

「? なにこれ?」

視線をあげてお母さんとお父さんを交互に見る。
「開けてみて」というお母さんの促しに、お父さんもにこやかに頷いたから、きっとお父さんも箱の中身を知っているのだろう。

きっちりと結ばれた、ブラックの布の上にブランド名が描かれたリボンを解く。
高級感漂う、しっかりとした黒色の箱をあけると、中にはジュエリーボックスが入っていた。

箱と同じ色のジュエリーボックスをゆっくりと開けると、中には、ピンクゴールドのラインストーンリングが入っている。

「可愛い……!」

「気に入ってくれた?」

「もちろん……。これ……もらっていいの?」

視線をリングから両親に移す。
お父さんは私の言葉に、「お父さんとお母さんからのクリスマスプレゼントだよ」と笑顔で答えてくれた。

「ありがとう……! すごく嬉しい!!」
「今の涼音には少し大人っぽすぎるデザインかなと思ったんだけど……ベーシックなデザインだから、ずっと使えるかなって思って。次の誕生日で成人を迎えるし、ずっと大切に使い続けてくれたら嬉しいな」

お母さんはいつの日かと同じように、底なしの包容力を持った声で、私の名前を優しく呼んだ。

「今年はあなたにとって、辛いことがたくさんあったでしょう。だからね、来年は、今年よりもずっとずっと幸せになりなさい。これは親からの命令よ」

「お母さん……」

鼻の奥がツンとした。

今年はしんどい一年だった。でもきっと、それはお母さんやお父さんも同じだっただろう。

娘が学校でいじめに遭い、転校することになった。
私の前では何でもないふうに、明るくいつも通り振る舞ってくれていたけれど、本当は二人だって私に隠していた思いや気持ちはあっただろう。
きっと私が想像する以上に、私のことを心配して、そして幸せになってほしい、笑顔でいてほしいと、願ってくれていたのだろう。

だから小学校低学年ぶりに、クリスマスプレゼントを用意してくれたはずだ。

「ありがとう……お父さん、お母さん」

「うん。さあ、はめてみて。きっと似合うはずよ」

少し湿っぽくなった雰囲気を追い払うように、お母さんはスマートフォンのカメラを私にむける。
「恥ずかしいよ」と言いながら右手の中指にはめると、二人は大袈裟なほど「似合う似合う」と褒めてくれた。
それが嬉しくて、少しくすぐったくて、でもやっぱりとても幸せだった。


両親からのプレゼントは嬉しくて、その日はリングをはめたままベッドに入った。
両親の気持ちが形になったリングをはめると、「今よりももっと幸せになって」と、そっと背中を押してもらえた気がした。

この決断が正しいのかどうかはわからないけれど、
大切に育ててもらったから、
たくさん愛情を注いでもらったから、
だから、私は、いつでも胸を張って「幸せだよ」と笑いたい。

笑わなくちゃいけない。