きみがいる、この世界で。


「確か泉本が日直の日だった。放課後、まだ残っていた俺に、安本たちがまたからかってきてさ。しつこさにうんざりして、我慢も限界になって言い返そうとした時、泉本が日誌を書きながらあっけらかんと言ってくれたんだよ。『いいじゃん、日焼けしてて。かっこいいじゃん、スポーツマンらしくて』って」

「……そんなこと、言いましたかね」

「言いましたね」

「やっぱり覚えてないよな?」と確認する彼に、申し訳なく思いつつも頷く。

「それを聞いて、あいつら、黙ったんだよ。やっぱりあの年頃は特に、表には出さないけど、女子に『かっこいい』って言われたい気持ちがあるから。泉本がキッパリ言ってくれたおかげで、今まであれだけからかってきたのに、その日以降何も言われないようになったんだよ」

知らなかった。確かに陶山へのからかいは気づいたら無くなっていたけれど、そのきっかけは、自分が発した言葉だったなんて。

「からかいがなくなったのは嬉しかったし、正直に言うけど『助かった』と思ったよ。でもそれ以上に、俺、なんだか嬉しかったんだよ。やっぱり色が黒いのは自分でも気にしていたし、なんつーか、欠点というか、カッコ悪いと思っていたから。それを『かっこいい』って言ってくれて、救われたっていうか。そうか、これを『かっこいい』って思ってくれる人もいるんだ、って。その日から、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、俺、自分に自信を持てるようになった。それで……その日から泉本のこと、ずっと好きだった」

陶山の言葉に、思わず「えっ」という声が自分の口からこぼれた。
確かに異性の中で、陶山はかなり仲が良いし、彼の人間性は私も好きだ。
でも、それは”友達”としてで、”異性”として好いてくれていることには気づいていなかった。

「ごめん、本当はこんな感じで言うつもりじゃなかったんだ。でも、嘘じゃない。泉本のことが好きで、それで、次は俺が泉本の力になりたいって思っている」

「陶山……」

何も言えずにいると、彼は「急にこんな重い話されても困るよな?」とおどけた様子で言った。

「だからさ、もう遅いかもしれないけど、転校のこと、考え直してくれないか?」

「それはちょっと難しいかも……。もう転入手続きを進めていて、新しい学校へも入学届提出したの」

私の言葉に、陶山は「そっか……そうだよな……」と俯く。

「陶山」

呼びかけに応えてくれた彼の表情には悔しさが浮かんでいて、彼が本当に私のことを想ってくれていることを知った。
同時に、今更ながら気づく。あれだけ苦しかった学校でも、きちんと自分のことを大切に想ってくれている人がいた。
自分が気づいていなかっただけで、本当は、自分のことを大事に想ってくれている人は自分が想像しているよりもたくさんいるのかもしれない、と。