きみがいる、この世界で。


「ごめん、俺、本当は気づいてた。柴山たちと何かあったんだろうなって。それで、泉本、嫌な思いしているんだろうなって」

「そっか、気づいてたか……いや、それは気づくよね、あんなにあからさまに嫌われると」

苦笑する私に、陶山は何とも言えない顔をした。
彼はジンジャーエールを一口飲むと、短い息を吐き、「泉本」と私の名前を呼びながら、まっすぐと私を見つめた。

「遅いかもしれないけど、転校、やめてくれないかな。俺、泉本のこと守るから。泉本がもう嫌な思いをしないように守るから、あいつらから」

「陶山?」

「俺、決めてたんだ。泉本に何か困ったことがあったら、次は俺が絶対に守ろう、って」

力強く言う彼に「『次』?」と尋ねる。陶山は「昔のことになるけど」と言ってから、静かに言葉を続けた。

「俺、中学一年の頃、いじめられてたっていうか、よくからかわれていただろ。ほら、安本たちから」

確かに陶山と安本が仲良くなったのは高校に入ってからだった。中学生の頃はそれほど一緒にはいなくて、むしろどちらかというと、陶山は彼のことを好きではなかった気がする。だって。

「……黒人、って言われてたこと?」

ためらいながら確認した私に、陶山は「そうそう」と苦笑した。

色黒の陶山は、特に中学一年生の頃、人より肌が焼けていて、その黒さが目立った。
後から聞いた話だったけれど、受験を終えてから、ずっと我慢していた好きなサッカーを毎日日が暮れるまでしていたらしい。
冬から春にかけての季節とはいえど、毎日太陽の下にいるとそれなりに焼ける。
それに加え、彼は焼けやすい体質だったからかなり色黒になっていた。
そんな彼を見て、安本をはじめ、クラスの男子数人は毎日のように陶山を『黒人』と揶揄した。

「あれ、本当に嫌だったんだよ。でもあの時、小柄だったから言い返しづらくてさ。もし言い返して殴られたらどうしようって。特に安本とか学年の中で一番レベルに身体が大きかっただろ。よく取っ組み合いの喧嘩もして先生たちを困らせていたし」

「そうだったね……」

今でこそ背も高く筋肉質だけれど、入学したての頃の陶山は、まだ背も低く、どちらかというと貧弱な印象だった。
一方の安本をはじめ、陶山のことをからかっていた男子たちは、中学校に入学した当時から身体も学年の中でトップを争うほど大きく、まさに「やんちゃ」という言葉が似合っていた。

「でも、やっぱり腹立つし。どんどんムカついてキレそうになった時、泉本が助けてくれたんだよ」

「私が?」

思わず確認するように聞き返してしまったのは、正直全く記憶にないことだったからだった。陶山もそれはわかっていたようだった。

「そうだよ、きっと覚えていないだろうけど」

素直に頷くと「だよなあ」と彼は爽やかに笑った。