転校することは、担任の先生にも、もちろん友梨ちゃんにも伝えなかった。
鈴木さんには「きちんとお別れする方が良いんじゃないですか?」と勧められたけれど、私はその提案を断った。
最後の最後まで、”普通”の時間を過ごしたかった。
その願いは叶えられ、放課後まで私は他の日と変哲もない時間を過ごした。
「ねえ、友梨ちゃん」
普段通り、一緒に電車を乗る。もう少しで彼女が乗り換えをする駅だ。
前の窓から入ってくる西日に目を細めながら、ちらりと彼女を見る。
普段通り、と願いながらも、やはり伝えておかなければいけないこともある。
「ありがとうね、私と友達になってくれて」
「なあに、急に」
友梨ちゃんはキョトンとした表情を浮かべる。
「ううん、何もない。友梨ちゃんと友達になれて本当によかったなあ、と思っただけだよ」
「いきなりどうしたの。家出なんかしないでよ?」
怪訝そうに笑う彼女に「しないよ」と答えると、友梨ちゃんはもう一度「変なの」と笑った。
「友梨ちゃん、ずっと友達でいてね」
「もちろん。おばあちゃんになっても友達でいよう。いつまでもスイーツ食べながら恋バナしなきゃ。歯がなくなってもアイスなら食べられるしね」
彼女の返しが嬉しくて、少しだけ涙が出そうになった。
「じゃ、また月曜日にね? 家出するなら事前に連絡してね?」
顔は笑っているけれど、目には心配の色が浮かんでいる。
きっと私の異変を感じ取って、心配してくれているのだろう。
やっぱり彼女と出会えてよかった。
乗り換えのために電車を降りた後も、友梨ちゃんは窓越しに私を見つめていた。
