【私のこと、忘れないで欲しい……】
彼にメッセージを送ると同時に、自分のスマートフォンに一滴の涙が落ちる。
【忘れないよ】
高橋くんは、まるで宝物を扱うかのように、丁寧に封筒に楽譜をしまうと、背負っていたリュックにいれた。
彼の返事を読んで顔をあげた私に、高橋くんは微笑みかけると、私に一歩近づき、そして力強く抱きしめてくれた。
【泉本さん】
今、自分を抱きしめてくれている彼から、メッセージが届く。
【俺、泉本さんのこと、絶対に忘れない。だから泉本さんも覚えておいてくれる? 俺のこと】
うんうん、と子どものように大きく頷くと、彼は私を抱きしめる力を一層強める。
この機に及んで、優しいだけじゃない男らしい彼の姿を知り、私はまた余計に彼を好きになってしまう。
【この前は『幸せになってね』って言ったけれど、俺、絶対にまた泉本さんに会いに来る。絶対に会いに来るから、待っていて】
高橋くんは大きく息を吸ってゆっくりと吐くと、私から身体を離した。
【元気でね。またね】
最後に優しく私の頭を撫でると、高橋くんは改札に向かって歩いていく。
「高橋くん……!」
待って。行かないで。そばにいて。お願い。
声にできない言葉を心の中で叫ぶ。
「お願い、忘れないで、私のことを忘れないで……」
涙と一緒に気持ちが溢れ落ちる。
どうにか、この気持ちが彼に少しでも届きますように、としか、私は祈ることができなかった。
