がやがやと賑わいを見せる店内では、どこを見渡しても目出度くできあがっている酔っ払いが目につく。
ずっと座敷に座りっぱなしという体勢は、三十五歳アラフォーの体には少々キツいものがある。冷たい畳に後ろ手をついて、ふぅと息を吐き出す。
今はそう、会社の忘年会の真っ最中だ。
「おー、福永《ふくなが》、飲んでるかぁ!?」
急に、ぐわしっと腕を肩に回されて、重心がグラつく。危うくビールを零すところだった。
ジョッキを持ち直し、上司であるそいつにヘラリと纏った笑みを向けた。
「はい、飲んでます」
「そーかそーか!それにしても、福永が二次会まで来んの初めてじゃねえか?」
「あー…そうですかね?」
濁すような口調でそう言って、すっかりぬるくなったビールを喉に流し込む。
「お前が来るなんて珍しいなって、さっきみんなで言ってたとこなんだよ!お前まさか、嫁さんと喧嘩でもしたか!?」
「いや別に、そういうわけじゃ…」
二次会に参加を決めた事に、家庭の事はなんら関係ない。だけど、本当は少し、帰りたくないと心のどこかで思っていたのかもしれない。
いや…帰りたくないというよりは、帰るのが怖い、の方が正しいか。
「お前んとこ、結婚して何年だっけ?」
「十年、すね」
「へえ長いな。子供は?」
「…いや、いません」
この質問の後、必ずと言っていいほどに変な間を作ってしまう。その意味に気づく人なんてきっと、彼女だけだろう。
「さてはお前、ちゃんと嫁さんのこと抱いてねえな!?」
「……」
“知っている人がいない地で、ゆっくり暮らしたい”
彼女のその要望を叶えるために、二年前、縁もゆかりも無いこのド田舎に居住地を変えた。
この二年で思った事は、この地の人は結構ズケズケと人のプライベートに首を突っ込んでくるという事。
もちろん一概には言えないだろうし、それが県民性によるものかも定かではないけれど、少なくともこの会社にはそういう人が多いと思う。
「お前、子供作る気あるけど出来ねえのか、作る気すらないのか、どっちだ?」
そんな事を聞いて、一体どうするつもりなんだろう。
答える気には到底なれず、曖昧な笑みだけを返した。