あっちが にしのうち の田んぼ。
 こっちの二つが おおかみ の田んぼ。

 暗い畦道を懐中電灯を便りに歩いている。田舎特有の屋号をいつの間にか覚えていてこれが土地に馴染むことかとしみじみ実感する。その感覚もきっと来年には薄れているのかもしれない。

 前を行く倫太郎は作業着のポッケに手を突っ込み、ただ、歩むだけ。元々感情を表に出すタイプではなかったけど高校に入ってさらに寡黙になった。


 そして、今までそんな倫太郎と居ても言葉を交わさない時間を煩わしく思ったことはないのに、今二人で畦道を歩くこの瞬間を気まずく思うのは、私達の気持ちがすれ違っているからだ。

 水が引いた田んぼでカエルが鳴いて、鈴虫とコオロギが鳴いて、両脇に広がっているであろう稲穂が風に鳴いている。それでも私と倫太郎はお互いに臆病で、お互いが大事だから、噛み合わない何かを必死に拒んでいる。



 ―――私達が恋人という意味のある関係になってから、五回目の秋を迎えた。