「たいちゃん、彼女出来たんだって」

「えっ」


 クローゼットから先日新調したばかりの浴衣を取り出そうとした時だった。私の部屋のドアを勝手に開け、開口一番そう放った弟は「俺、義兄はたいちゃんが良かったな」と皮肉たっぷりに呟いた。


「もしかして今日、一緒に行く気満々だった?」

「そ、そんなわけないでしょ」


 ううん、おっしゃる通りです。この浴衣もこの日のために用意したし、ヘアアレンジのやり方も、インスタでバカみたいに調べて練習した。それなのに、今の一言で全て意味をなくした。

──花火大会で告白したら、成功率高いらしいよ。

 友達の言葉を信じて、私は今日に全てを賭けてた。今年は今までで一番距離を近付ける夏にする予定だった。


「…何で言ってくれなかったの」


 弟がいなくなった部屋で、スマホの画面を見つめながらぽつりと呟く。花火大会まであと五時間。大翔(たいが)からの連絡はない。