「おはよ。さむー! 今日めっちゃ寒い!」
細谷が手をこすりながら、朝教室に入ってきた。
今日は初雪は舞うかも知れないと天気予報で言っていたのを健二が思い出した。
「こっちはあまり雪降らんのん?」
「そうだな、雪が積もってもせいぜいうっすらだし。広島はよく降ってた?」
鞄を肩から下ろしながら細谷が聞くと、健二は頷く。
健二もさっき教室へ到着したばかりでまだ鼻を赤くしたままだ。
「地元はよく積もっとったよ。夜中にしんしんするけえ、外みたら雪が積もっててあたりがぼんやり白くなる」
「へえ、なんだかロマンチック。ロマンチックといえばさ、クリスマスたねえ。今朝、テレビでやってたけど、イルミネーション点灯したんだって」
「俺も見た、その番組。あのイルミネーションてドラマとかの撮影したりしとるやつじゃろ? 見てみたい」
先に席に着いていた圭人はそのやりとりをぼんやりと聞いていた。
自分たちからすると毎年恒例の景色だが、健二にとっては初めてなのだ。
圭人はイルミネーションを見せてやったら喜ぶかなと思いふと口にする。
「じゃあ三人で見に行く? ここから割と近いし」
「えっ! ほんまに?」
嬉しそうに笑う健二。細谷はキョトンとしてる。
「珍しいな、圭人が人を誘うなんて。あ、俺は寒いの苦手だからパスね」
二人で仲良く言ってきな、と手を振る。圭人はしまった、と思ったが健二の喜びように後に引けなくなってしまう。
「なあ、なあ、いつ行くん?」
(……なんで誘ったんだろ、俺)
約束をした日から一週間後の夕方。
さすがに夜遅くになるのはまずいので、一時間くらいで帰ろうと決めて、二人はそのイルミネーションのある街路樹を散策する。
大きな街路樹が青色のイルミネーションに包まれて、時間が来ると白に変わり、また青に変化して行く。
街路樹のイルミネーションは200メートルくらい続いていた。
「わあすげえ」
健二は大はしゃぎしてスマホで写真を撮っていた。
対する圭人は今まで何度も見ている景色なので感動は全くない。
ただ、隣で子供のようにはしゃぐ健二を見ていた。
感情を表に出す健二がめんどくさくて、うるさいと思っていたのに、いつのまにか慣れてきて、圭人もよく笑うようになっていた。
健二の笑顔は、他人も笑顔にしてしまう。
まじまじと考えると照れ臭くなるのだが、不思議な魅力があるのだと圭人は思う。
(だからみんなに好かれるんだろうな)
今やもう健二はクラスの中心にいる。
健二の周りでは誰かがいつも笑っている。
「圭人一緒に写真撮ろうや」
街路樹の途中に、ひときわ大きい木がありその前で健二が手を振っている。
まわりはカップルだらけで、男同士で歩いているのは自分達だけではないかと思うくらいだ。
「男同士で撮ったって面白くないだろ」
「圭人と一緒に撮りたいんよ」
そう言って向けた健二の笑顔。
その笑顔に、圭人の胸が一瞬ドキッと高鳴った。
(……あれ?)
この胸の高鳴りを、圭人は知っている。昔、中学生の頃に体験したことがあった。
それは文化委員長をしていた一つ上の先輩。背筋を伸ばし颯爽と歩く彼はいつも近寄りがたいオーラを放っていた。そんな彼が子供のように笑うのを目撃したときの胸の高鳴り。あのときは単純に彼に憧れていたからだと思い込んでいたのだが。
それならなぜ今、健二の笑顔に高鳴ったのか。憧れではない、この高鳴り。もしかしたら先輩に対する気持ちもそうだったのかもしれない。
女子に何人にも告白されてときめかなかったのも。
(もしかして、俺……)
「早う、隣こいよ」
「わ」
腕をぐいと引っ張られて無理やり横に引っ張ると、健二はそのまま顔を近づけて、スマホで自撮りする。
嬉しそうな健二の顔と、驚いたような圭人の顔。
幸いにも暗くて、その圭人の顔が赤くなっていることに、健二は気が付いていなかった。
細谷が手をこすりながら、朝教室に入ってきた。
今日は初雪は舞うかも知れないと天気予報で言っていたのを健二が思い出した。
「こっちはあまり雪降らんのん?」
「そうだな、雪が積もってもせいぜいうっすらだし。広島はよく降ってた?」
鞄を肩から下ろしながら細谷が聞くと、健二は頷く。
健二もさっき教室へ到着したばかりでまだ鼻を赤くしたままだ。
「地元はよく積もっとったよ。夜中にしんしんするけえ、外みたら雪が積もっててあたりがぼんやり白くなる」
「へえ、なんだかロマンチック。ロマンチックといえばさ、クリスマスたねえ。今朝、テレビでやってたけど、イルミネーション点灯したんだって」
「俺も見た、その番組。あのイルミネーションてドラマとかの撮影したりしとるやつじゃろ? 見てみたい」
先に席に着いていた圭人はそのやりとりをぼんやりと聞いていた。
自分たちからすると毎年恒例の景色だが、健二にとっては初めてなのだ。
圭人はイルミネーションを見せてやったら喜ぶかなと思いふと口にする。
「じゃあ三人で見に行く? ここから割と近いし」
「えっ! ほんまに?」
嬉しそうに笑う健二。細谷はキョトンとしてる。
「珍しいな、圭人が人を誘うなんて。あ、俺は寒いの苦手だからパスね」
二人で仲良く言ってきな、と手を振る。圭人はしまった、と思ったが健二の喜びように後に引けなくなってしまう。
「なあ、なあ、いつ行くん?」
(……なんで誘ったんだろ、俺)
約束をした日から一週間後の夕方。
さすがに夜遅くになるのはまずいので、一時間くらいで帰ろうと決めて、二人はそのイルミネーションのある街路樹を散策する。
大きな街路樹が青色のイルミネーションに包まれて、時間が来ると白に変わり、また青に変化して行く。
街路樹のイルミネーションは200メートルくらい続いていた。
「わあすげえ」
健二は大はしゃぎしてスマホで写真を撮っていた。
対する圭人は今まで何度も見ている景色なので感動は全くない。
ただ、隣で子供のようにはしゃぐ健二を見ていた。
感情を表に出す健二がめんどくさくて、うるさいと思っていたのに、いつのまにか慣れてきて、圭人もよく笑うようになっていた。
健二の笑顔は、他人も笑顔にしてしまう。
まじまじと考えると照れ臭くなるのだが、不思議な魅力があるのだと圭人は思う。
(だからみんなに好かれるんだろうな)
今やもう健二はクラスの中心にいる。
健二の周りでは誰かがいつも笑っている。
「圭人一緒に写真撮ろうや」
街路樹の途中に、ひときわ大きい木がありその前で健二が手を振っている。
まわりはカップルだらけで、男同士で歩いているのは自分達だけではないかと思うくらいだ。
「男同士で撮ったって面白くないだろ」
「圭人と一緒に撮りたいんよ」
そう言って向けた健二の笑顔。
その笑顔に、圭人の胸が一瞬ドキッと高鳴った。
(……あれ?)
この胸の高鳴りを、圭人は知っている。昔、中学生の頃に体験したことがあった。
それは文化委員長をしていた一つ上の先輩。背筋を伸ばし颯爽と歩く彼はいつも近寄りがたいオーラを放っていた。そんな彼が子供のように笑うのを目撃したときの胸の高鳴り。あのときは単純に彼に憧れていたからだと思い込んでいたのだが。
それならなぜ今、健二の笑顔に高鳴ったのか。憧れではない、この高鳴り。もしかしたら先輩に対する気持ちもそうだったのかもしれない。
女子に何人にも告白されてときめかなかったのも。
(もしかして、俺……)
「早う、隣こいよ」
「わ」
腕をぐいと引っ張られて無理やり横に引っ張ると、健二はそのまま顔を近づけて、スマホで自撮りする。
嬉しそうな健二の顔と、驚いたような圭人の顔。
幸いにも暗くて、その圭人の顔が赤くなっていることに、健二は気が付いていなかった。