それから数日して、川上が持ってきた衣装を二人はおとなしく着た。
シャツにカフェエプロンをつけた健二。短髪が清潔感あっていいわ! と女子が騒いでいるのを、着替えながら圭人は耳にする。
そういえば健二がいつの間にかクラスの中心になってきたなあと感じた。
転校してすぐのころは圭人としかほぼ話をしなかったし、近寄りがたかったのかクラスメイトも健二に話しかけなかった。
それなのに今はみんなに好かれているようだ。
男らしい風貌と、広島弁が女子たちには新鮮に映ったようで、なかなか人気がある。
細谷情報だと一年の女子に告白されたらしい。だがその後も変わりなく圭人に纏わり付いているから、付き合っていないようだ。
女子に人気があるだけではなく、明るく裏表のない性格で男子にも人気がある。
つまりはみんなからモテモテだ。
(……健二のくせに)
訳の分からないモヤモヤ感に包まれながら、圭人は手元にあったスカートを手に取ってはいた。
着替え終わった圭人が教室に入ると、早速女子の叫び声が響く。
「やっぱりイケメンが女装すると美人になるのね」
川上が満足そうに笑うと、隣にいた女子たちが力強く頷く。
元々肌が綺麗な圭人だが少し化粧をしてもらったのでエメラルドグリーンの瞳に透き通る肌が美しさに拍車をかけている。
ウィッグをつけた圭人に男子たちが『俺、加屋なら行ける気がする』と血迷った言葉を発しているのを聞いて圭人はわざと大股に歩き呟いた。
「足元、スースーする」
「そりゃ我慢するしかないな。やー、ほんと看板娘だわ」
ニヤニヤ笑う細谷のとなりに健二が立っていた。そのウェイター姿はいつもより大人っぽく見え、何だか他人のよう。そんな健二はずっと圭人を見つめている。
(何だよ、そんなに見るな)
気恥ずかしくなり、圭人が後ろを向いた時、川上が声をかけてきた。
「青山くんに加屋くん、こっちにきて。写真撮るからあ」
模擬喫茶店用のポスターを作るから、撮影をするという。嫌がる二人を周りのクラスメートたちが捕まえて、健二と圭人を中心にみんなが集まる。
「はあい、二人仲良くして」
無理矢理二人の体をくっつけてくるので、肩が触れ合うくらいの距離だ。
「押すなって」
そして至近距離で目があった時、健二が耳まで真っ赤になってしまう。
(何で赤くなってんだよ)
結局二人ともぎこちない顔になってしまったため、撮影はかなり時間を要してしまった。
撮影が終わり、着替えようとすると『せっかくなら喫茶店ごっこ……じゃない、練習しようぜ!』とクラスメイトたちが囃し立てた。客になりきった生徒が机に座り、健二が渋々と言った感じに接客をはじめる。
「お前そんな不貞腐れた顔で本番やるなよ」
「うるさいわい!」
「じゃ注文聞いて」
「……それで、たちまち何、注文するん」
それを聞いて皆がキョトンとした。健二の言葉が分からないのだ。
「たちまち?」
細谷が聞き返すと、健二はムッとしたような口調で答える。
「……たちまち、言うたらとりあえずとか。『とりあえず何注文するか』ってこと」
へぇー、と細谷をはじめ圭人やクラスメイトたちが感心したように頷くので、健二は恥ずかしくなったのか、もう着替える! と喚き散らしていた。
そして模擬喫茶店『たちまちカフェ』はあのポスターのおかげか、文化祭当日は盛況となった。
これをきっかけにクラスでは『たちまち』ブームが訪れ、卒業するまで自然に使われていた。
シャツにカフェエプロンをつけた健二。短髪が清潔感あっていいわ! と女子が騒いでいるのを、着替えながら圭人は耳にする。
そういえば健二がいつの間にかクラスの中心になってきたなあと感じた。
転校してすぐのころは圭人としかほぼ話をしなかったし、近寄りがたかったのかクラスメイトも健二に話しかけなかった。
それなのに今はみんなに好かれているようだ。
男らしい風貌と、広島弁が女子たちには新鮮に映ったようで、なかなか人気がある。
細谷情報だと一年の女子に告白されたらしい。だがその後も変わりなく圭人に纏わり付いているから、付き合っていないようだ。
女子に人気があるだけではなく、明るく裏表のない性格で男子にも人気がある。
つまりはみんなからモテモテだ。
(……健二のくせに)
訳の分からないモヤモヤ感に包まれながら、圭人は手元にあったスカートを手に取ってはいた。
着替え終わった圭人が教室に入ると、早速女子の叫び声が響く。
「やっぱりイケメンが女装すると美人になるのね」
川上が満足そうに笑うと、隣にいた女子たちが力強く頷く。
元々肌が綺麗な圭人だが少し化粧をしてもらったのでエメラルドグリーンの瞳に透き通る肌が美しさに拍車をかけている。
ウィッグをつけた圭人に男子たちが『俺、加屋なら行ける気がする』と血迷った言葉を発しているのを聞いて圭人はわざと大股に歩き呟いた。
「足元、スースーする」
「そりゃ我慢するしかないな。やー、ほんと看板娘だわ」
ニヤニヤ笑う細谷のとなりに健二が立っていた。そのウェイター姿はいつもより大人っぽく見え、何だか他人のよう。そんな健二はずっと圭人を見つめている。
(何だよ、そんなに見るな)
気恥ずかしくなり、圭人が後ろを向いた時、川上が声をかけてきた。
「青山くんに加屋くん、こっちにきて。写真撮るからあ」
模擬喫茶店用のポスターを作るから、撮影をするという。嫌がる二人を周りのクラスメートたちが捕まえて、健二と圭人を中心にみんなが集まる。
「はあい、二人仲良くして」
無理矢理二人の体をくっつけてくるので、肩が触れ合うくらいの距離だ。
「押すなって」
そして至近距離で目があった時、健二が耳まで真っ赤になってしまう。
(何で赤くなってんだよ)
結局二人ともぎこちない顔になってしまったため、撮影はかなり時間を要してしまった。
撮影が終わり、着替えようとすると『せっかくなら喫茶店ごっこ……じゃない、練習しようぜ!』とクラスメイトたちが囃し立てた。客になりきった生徒が机に座り、健二が渋々と言った感じに接客をはじめる。
「お前そんな不貞腐れた顔で本番やるなよ」
「うるさいわい!」
「じゃ注文聞いて」
「……それで、たちまち何、注文するん」
それを聞いて皆がキョトンとした。健二の言葉が分からないのだ。
「たちまち?」
細谷が聞き返すと、健二はムッとしたような口調で答える。
「……たちまち、言うたらとりあえずとか。『とりあえず何注文するか』ってこと」
へぇー、と細谷をはじめ圭人やクラスメイトたちが感心したように頷くので、健二は恥ずかしくなったのか、もう着替える! と喚き散らしていた。
そして模擬喫茶店『たちまちカフェ』はあのポスターのおかげか、文化祭当日は盛況となった。
これをきっかけにクラスでは『たちまち』ブームが訪れ、卒業するまで自然に使われていた。