それから一週間ほど経ったある日。
「圭人、帰ろうぜ」
授業が終わり、鞄に荷物を入れていると、後から健二が話しかけてくる。

数日前、健二の家と圭人の家が途中まで同じ方角であることが判明し、健二は嬉々として一緒に帰ろうと言ってきた。
さすがにめんどくさい、と圭人は嫌がったのだが『転校生が道に迷ってもいいんか?』と脅されて渋々一緒に帰るようになったのだ。そして気がつくと、圭人を名前で呼んでいて、それもまたむかつくのだがわざわざ注意するのも面倒でそのまま呼ばせることにした。
(ホントにどこまでも図々しい奴)

「圭人はあまり喋らんの」
校舎を出て歩いているとき、ふと健二がそう言った。その言葉に思わず圭人が驚く。
「え、何? 今頃になって気づいた?」
「うん。そう言えば俺ばっかり喋っとるわーって」
真剣な顔をしてそう話す健二に、一週間も経って初めて気がつくようなことかよ、と呆れ圭人は思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいん?」
健二が膨れっ面になると圭人はさらに笑い出す。
「お前、面白いやつだな」
それは少しだけ圭人が健二に対して心を許した瞬間だった。

***

だんだんと空が高くなっていき、衣替えもすんだある日。
圭人は学校から帰宅した後、ポメラニアンのレオと一緒に散歩へ出た。
行き先は近くの公園。レオはこの公園が大好きで尻尾をご機嫌に振っているのを見ながらそろそろ到着しそうになった頃……

「あっ、やばい」
今日までに買わなければいけない参考書があったことを思い出す。
散歩の後に本屋に寄って買えばいいのだが、書店は公園と逆方向だし、レオを連れて入店ができない。
圭人はスマホを取り出して、電話をかける。
レオはその間も元気よく前に進もうとするので、圭人はリードを強く持つ。コール二回で相手に電話が繋がった。
「ああ、修也(しゅうや)。悪いけどレオの散歩、変わってくんない?」
電話先の相手は弟の修也だ。
散歩に出るときに、修也が家に帰っていたのを思い出して、レオの散歩を代わって欲しいとお願いした。
『分かった。いつもの公園だね、待ってて』
電話を切り、最近ジョギングにハマっている修也は走ってくるだろうから十分くらい待てばいいかと思いながらレオを遊ばせる。

すると道路向かいに見覚えのある姿を見つけた。
短髪の学ラン姿。それは健二だった。