「なあ、お前さあハーフなん?」

授業が終わって休憩になった途端、背中をペンでつつかれて圭人が振り返ると健二が突然そう聞いてきた。
圭人が戸惑っていると、さらに健二は顔を近づけ物珍しそうに圭人の顔を見ている。
「すごい髪が色素薄いし、目の色が違うし、かっこええのお」
初対面の転校生にべらべら話しかけられて、圭人はウンザリしてきた。

めんどくさそうと感じた自分の勘はやはり正しかったのだ。圭人は色々詮索するのも、されるのも苦手だ。無言で席を立ち、そのまま教室を出た。

次の授業が始まる頃に戻ると、健二は席にいたが気にせずに圭人は席に戻る。少しだけムッとした表情をしているように見えたが、圭人はお構いなし。
友人でも何でもない奴に急に話しかけられて仲良く出来るか、と毒づいていると授業がはじまった。

無視すれば話しかけてこないだろうと思っていたが、健二は更に上を行く。その後の休憩でも放課後でも、圭人が話をしなくてもめげずに話しかけてきたのだ。 

「なあ、なあって」
放課後はもう逃げようがなくて、無視すること自体が面倒になり、とうとう圭人は返事を返す。
「……そうだよ、ハーフなの。これで満足?」
そっけなく返すと、健二は嬉しそうに目を輝かせた。圭人は一瞬驚く。
(何でそこまで目を輝かすんだ? 一言返しただけなのに)
「やっと話してくれた! どこの国のハーフ?」
健二が更にたたみかけてくるものだから、圭人はため息をついた。
「アイルランドと日本。なあ、俺帰りたいんだけど」
「あ、ごめん! また明日な!」
圭人に手を振ると健二は鞄を手に取って教室を先に出ていく。 
まるで嵐のように過ぎ去っていった健二の背中を、圭人はぽかんとあっけにとられながら見送った。

その日から健二は何かと圭人に話しかけてきた。

『なあ、この学校ってラグビー部あるん?』
『美術室まで一緒に連れてって』
『圭人は部活なにしよん』
とにかく色々聞いてくる。圭人が無視してもめげずに話しかけてくるのだ。

圭人は完全にロックオンされた状態だと、弁当を食べている間、細谷にそう言われた。
「何で圭人ばかり話しかけてくるんだろうね、あの転校生」
「知るか」
「他の奴にはほとんど話しかけないのにさあ。よりにもよって人嫌いなコイツに」
卵焼きを箸に突き刺して笑う細谷。

ここ三日間で圭人があまり話が弾む方ではないことに健二は気づいているはずだ。細谷や他のクラスメイトに話しかければ、もっと話も弾むだろうに、と圭人は思わずにいられない。

「あいつホント、面白い奴だな」
細谷がそう言い卵焼きを口の中に入れる。
(どうせならこういう奴に懐けばのに)
圭人は小さくため息をついた。