圭人は慌てて目を逸らし、前を向いて歩く。
(好き好き、言うな! 人の気も知らないで)
健二が好きだと自覚したものの、諦めるために圭人は友人として振る舞うしかなかった。
それでも一度気がついた自分の気持ちにはなかなか逆らえず、こうやって健二の隣にいるだけでも意識してしまう。
しばらく沈黙が流れ、レオの好きな公園まで差し掛かった時、健二が突然ポツリと呟いた。

「……圭人は、俺と離れたら、寂しいと思うてくれる?」
「は……?」

背中から聞こえたその声は消え入りそうになる程、小さかった。
思わず振り向くと健二はまた圭人をじっと見つめていた。突然何を、と思ったが圭人は咄嗟に声を張り上げる。
「そんなの、当たり前だろ! 健二がいなくなったら、寂しいに決まってる!」

普段出さない圭人の大声に、健二は驚いた顔を見せたがまた小さな声で問う。

「……じゃ、離れんでいい?」
「離れんな」

それを聞くや否や、健二が圭人に飛びついてきて体を抱きしめた。
「わ! おい!」
驚いた思わず圭人が声を荒げたが健二は体を離さない。
人に見られるとかよりも、自分の心臓の鼓動が聞こえてないか心配だ。
だがそんな心配をよそに健二は顔を圭人の肩に乗せたまま話す。

鼻がつきそうなほど近い距離に、圭人は思わず顔を仰け反らしてしまう。
「近い」
「圭人を独り占めしたい」
珍しく健二が真顔で見つめてくる。その視線に負けて圭人は顔を背けた。

「……ほぼ、できてるじゃん」
「友達としてじゃのうて」
「……え?」
「気持ち悪いかも知れんけど、言ってええ? 俺、圭人が好きなんよ。恋愛的な意味で」

その言葉に思わず圭人は健二の体を押し退け、圭人は目の前の健二を睨みつける。
(これ夢か?)
ぎゅっと拳を握り、自分の爪を立ててみた。痛みを感じるから、夢ではないようだ。
「本当は言わんつもりだったんだけど……」
どんどん声が小さくなる健二。そんな都合のいいことが本当に起こりうるのだろうか。
好きになった同性の友人が実は自分を好きだったなんて。

「お前っ、告白されてたじゃん」
「俺、全部断ってた。恋愛に興味ないけぇって……ホントは女に興味ないけぇって言いたかったけど」

つまりは健二は元々、同性が恋愛対象なのだ。
だから、圭人に一目惚れし、好きになることはなんら不思議ではない。
(そんなの、先に言えよ)
そう圭人は少し思ったが、同性が好きと言うことを公言するのは躊躇うだろう。
多様性がどうのと言われてもまだオープンにするのは難しい。
ましてや健二の生まれ育った環境はこの辺りと違い閉鎖的な田舎だった。
だから言えるわけがないのだ。

顔も耳も、真っ赤になっている健二。
その様子はあの時、ポスターを撮るために二人が接近した時の顔と同じ。
あのとき、すでに健二は自分のことを意識していたのか、と思うと
胸の鼓動が早くなっていく。