伊月がそう言って差し出してきたものを見て、俺は「は?」と眉を吊り上げた。
「……『それ』が百科事典だって? 嘘だろ」
目の前にあるのは分厚い本じゃない。もっと薄っぺらくて、小さくて……。
「どう見ても『CD』よね、それ」
ちなみちゃんがパチパチと瞬きをしながら言った。
その通り。目の前にあるのは四角いプラスチックケースに入った銀の円盤だ。本でもなけりゃ紙でもない。
だが、激しく首を傾げている俺たちをよそに、伊月は余裕の表情を浮かべた。
「これはCDじゃなくて、CD-ROMだよ」
「伊月、そんな細かいことどうでもいいだろ。今捜してるのは、百科事典……」
「だから、これが百科事典なんだよ、幸太郎くん」
伊月の手で、CD……もといCD-ROMが、ずいっと前に突き出される。
「ほんとだわ! パッケージに百科事典って書いてある!」
ちなみちゃんが、素っ頓狂な声を出した。
俺も「あっ」と息を呑む。
そこには、確かに百科事典の文字があった。他にも収録用語の数なんかの情報が記載されている。
間違いない。思ってたのとずいぶん形が違うが、これはれっきとした百科事典だ!
「浦辻先生が貸してくれたの、紙の本じゃなかったんだ……」
まだ驚きが抜けきっていない様子のちなみちゃんに、伊月は冷静な声で「そうです」と返した。
「貸主の浦辻先生は、何でもデジタル化しています。そんな人なら、百科事典も紙ではなく、パソコンで見られる形……CD-ROMのタイプを使うはず。そのことに気付いて、もう一度あたりを捜したら、すぐにこれが見つかりました」
俺は「ふへー」っと感嘆の息を漏らした。
百科事典はちゃんと部屋の中にあったんだ。だが、俺たちが全く違うもの……紙の本を思い浮かべてたせいで、目に留まらなかった。
伊月が真相に気付かなきゃ、まだ見つかってなかっただろうな。
「花村先生、どうぞ」
伊月の手で、小さな百科事典がちなみちゃんに渡される。
「ありがとう! 助かったわ」
ちなみちゃんはそれをかき抱いて、ホッと全身の力を抜いた。
泣きそうだった顔にすっかり明るさが戻って、俺も嬉しいぜ。あーよかった。これで一件落着だな!
「どれどれ。ちょっと中身を見てみるわね」
しばらくCD-ROMを抱き締めていたちなみちゃんは、やがていそいそとケースに手をかけた。
「分厚い本が、今はこんなにコンパクトになっちゃうのね……えっ?」
そこで、動きが止まった。我らが担任はすぅーっと息を呑み、そのままぽかんと口を開ける。
「ん? どうしたんだよ、ちなみちゃ……じゃなくて、花村先生」
「何かあったんですか」
異変を察知して、俺と伊月も慌ててちなみちゃんの手元を覗き込んだ。
CD-ROMのケースの中には、カラー印刷の小さなブックレットが差し込まれていた。さらに、名刺くらいの大きさの、メモみたいなものが……。
『花村ちなみ先生。今度一緒に、お食事でもいかかですか。 浦辻圭介』
ペンで走り書きされた、そっけない字。
おいおい、これって……。
「ええぇぇぇっ、嘘でしょぉぉぉぉ――っ?!」
次の瞬間、音楽準備室に、ちなみちゃんの今日一番の大声が響き渡った。
その手には、CD-ROMの中にあった飾り気のないラブレターが、しっかりと握られていた。
「……『それ』が百科事典だって? 嘘だろ」
目の前にあるのは分厚い本じゃない。もっと薄っぺらくて、小さくて……。
「どう見ても『CD』よね、それ」
ちなみちゃんがパチパチと瞬きをしながら言った。
その通り。目の前にあるのは四角いプラスチックケースに入った銀の円盤だ。本でもなけりゃ紙でもない。
だが、激しく首を傾げている俺たちをよそに、伊月は余裕の表情を浮かべた。
「これはCDじゃなくて、CD-ROMだよ」
「伊月、そんな細かいことどうでもいいだろ。今捜してるのは、百科事典……」
「だから、これが百科事典なんだよ、幸太郎くん」
伊月の手で、CD……もといCD-ROMが、ずいっと前に突き出される。
「ほんとだわ! パッケージに百科事典って書いてある!」
ちなみちゃんが、素っ頓狂な声を出した。
俺も「あっ」と息を呑む。
そこには、確かに百科事典の文字があった。他にも収録用語の数なんかの情報が記載されている。
間違いない。思ってたのとずいぶん形が違うが、これはれっきとした百科事典だ!
「浦辻先生が貸してくれたの、紙の本じゃなかったんだ……」
まだ驚きが抜けきっていない様子のちなみちゃんに、伊月は冷静な声で「そうです」と返した。
「貸主の浦辻先生は、何でもデジタル化しています。そんな人なら、百科事典も紙ではなく、パソコンで見られる形……CD-ROMのタイプを使うはず。そのことに気付いて、もう一度あたりを捜したら、すぐにこれが見つかりました」
俺は「ふへー」っと感嘆の息を漏らした。
百科事典はちゃんと部屋の中にあったんだ。だが、俺たちが全く違うもの……紙の本を思い浮かべてたせいで、目に留まらなかった。
伊月が真相に気付かなきゃ、まだ見つかってなかっただろうな。
「花村先生、どうぞ」
伊月の手で、小さな百科事典がちなみちゃんに渡される。
「ありがとう! 助かったわ」
ちなみちゃんはそれをかき抱いて、ホッと全身の力を抜いた。
泣きそうだった顔にすっかり明るさが戻って、俺も嬉しいぜ。あーよかった。これで一件落着だな!
「どれどれ。ちょっと中身を見てみるわね」
しばらくCD-ROMを抱き締めていたちなみちゃんは、やがていそいそとケースに手をかけた。
「分厚い本が、今はこんなにコンパクトになっちゃうのね……えっ?」
そこで、動きが止まった。我らが担任はすぅーっと息を呑み、そのままぽかんと口を開ける。
「ん? どうしたんだよ、ちなみちゃ……じゃなくて、花村先生」
「何かあったんですか」
異変を察知して、俺と伊月も慌ててちなみちゃんの手元を覗き込んだ。
CD-ROMのケースの中には、カラー印刷の小さなブックレットが差し込まれていた。さらに、名刺くらいの大きさの、メモみたいなものが……。
『花村ちなみ先生。今度一緒に、お食事でもいかかですか。 浦辻圭介』
ペンで走り書きされた、そっけない字。
おいおい、これって……。
「ええぇぇぇっ、嘘でしょぉぉぉぉ――っ?!」
次の瞬間、音楽準備室に、ちなみちゃんの今日一番の大声が響き渡った。
その手には、CD-ROMの中にあった飾り気のないラブレターが、しっかりと握られていた。