凉樹はベッドの上で気絶したように眠っている。薬が効く時間は最長でも四時間。その間にあるミッションを遂行しなければならない。
鞄の奥に入れておいた手袋をはめ、マスクを着用し、完全防備の状態で彼の部屋の散策を始めた。
「やっぱり物が少ない」
凉樹のリビングダイニングに置かれている家具は、大きめのテレビ、ダイニングテーブルとイスが二脚、雑誌ラックと食器棚のみ。家電は炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫といった必需品に加え、ワインラックという彼の趣味のものがあるだけだった。テーブルの上は忙しくしている人とは思えないほど整頓されていて、床には埃一つ見つからない。
俺は大体この家にあるものを把握していた。そして、メンバーから誕生日で何を貰ったのかも、番組からお祝いでどんなものが送られたのかも、家に遊びに行く度に聴取し、それをすべて記憶している。物だけじゃなく、服や食器なども。それに、彼の家にはドラマやバラエティ番組の台本などが置かれていないことも知っている。だからこの家には業界系のものはほとんどない。あと、この家に関することで俺が把握しているのは、預金通帳は寝室にある鍵付きキャビネットに入れてあることぐらい。
壁にかけられた電波時計には、13:38と表示されている。この家を遅くても十四時に出ようと考えていた咲佑は、次第に焦り始める。当初の予定が崩れ始める。何を盗ろうか。そのときだった。脳裏に浮かんだ金色のランプ。あれは、完全に異性からのプレゼント。あれを盗れば目的は果たせる。ただ、盗んだ犯人が判明するリスクは高い。それだけは避けたい。ならどうする・・・。
「あ、あの手があったか」俺はお宝が眠る場所へ真っ先に向かう。その道中、異様なほどの興奮感を覚えた。
凉樹は根っからのワイン好きで、三本は常備していると聞いたことがあった。しかし普段からワインを飲むことはなく、連休ができれば嗜むぐらいで、スーパーなどで手軽に買えるワインを置くこともあれば、貰い物の高い一品を置くこともあるらしい。
三本中一本、しかも安いやつなら彼だって文句を言わないだろう。そういう軽い考えで俺はワインラックの前に立った。が、そこには三本どころか、七本も入っていた。普段から常備しているものに加えて、おそらく誕生日でもらった分が入っているのだろう。その中から一際目立つワインを取り出しラベルを見る。そこには丸みを帯びた字のメッセージとともに、凉樹の生まれ年の記載があった。これは完全に貰い物だ。しかも、異性からの。
リミットまで残り五分。手軽に持ち運びできるもので、今度は異性からのプレゼントというよりは、凉樹を身近に感じられる物が欲しかった。あともう一品だけ。その思いで食器棚を覗く。普段から料理をする凉樹にしては持っている食器が少ないように感じたが、その中で見覚えのある皿があった。それは、青の濃淡が美しい魚皿。手作りの風味が滲み出ている。
「これなら凉樹をそばに感じていられる」
俺はお皿をそっと取り出し、紙袋に入れる。ワインとぶつかって割れるなんてことがあってはならない。だから何か緩衝材替わりになるものを。そこで目に映ったのは、床の上に積まれたいくつもの服。これは昨日の夜、俺が凉樹に「いらない服があったら欲しい」と頼んで出してもらったもの。流石にこんな数は貰っていけない。リミットが迫る中、デザインやサイズなど気にする余裕もなく、袋に入る分だけを詰め込んだ。いい緩衝材と隠しになる。頬が自然と緩んだ。
新品同様の中古スマホの画面に表示された時間。タイムリミットの二分前だった。滴る汗を服で拭いながら自宅へ向かって走り出す。雨雲はもういなかった。
鞄の奥に入れておいた手袋をはめ、マスクを着用し、完全防備の状態で彼の部屋の散策を始めた。
「やっぱり物が少ない」
凉樹のリビングダイニングに置かれている家具は、大きめのテレビ、ダイニングテーブルとイスが二脚、雑誌ラックと食器棚のみ。家電は炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫といった必需品に加え、ワインラックという彼の趣味のものがあるだけだった。テーブルの上は忙しくしている人とは思えないほど整頓されていて、床には埃一つ見つからない。
俺は大体この家にあるものを把握していた。そして、メンバーから誕生日で何を貰ったのかも、番組からお祝いでどんなものが送られたのかも、家に遊びに行く度に聴取し、それをすべて記憶している。物だけじゃなく、服や食器なども。それに、彼の家にはドラマやバラエティ番組の台本などが置かれていないことも知っている。だからこの家には業界系のものはほとんどない。あと、この家に関することで俺が把握しているのは、預金通帳は寝室にある鍵付きキャビネットに入れてあることぐらい。
壁にかけられた電波時計には、13:38と表示されている。この家を遅くても十四時に出ようと考えていた咲佑は、次第に焦り始める。当初の予定が崩れ始める。何を盗ろうか。そのときだった。脳裏に浮かんだ金色のランプ。あれは、完全に異性からのプレゼント。あれを盗れば目的は果たせる。ただ、盗んだ犯人が判明するリスクは高い。それだけは避けたい。ならどうする・・・。
「あ、あの手があったか」俺はお宝が眠る場所へ真っ先に向かう。その道中、異様なほどの興奮感を覚えた。
凉樹は根っからのワイン好きで、三本は常備していると聞いたことがあった。しかし普段からワインを飲むことはなく、連休ができれば嗜むぐらいで、スーパーなどで手軽に買えるワインを置くこともあれば、貰い物の高い一品を置くこともあるらしい。
三本中一本、しかも安いやつなら彼だって文句を言わないだろう。そういう軽い考えで俺はワインラックの前に立った。が、そこには三本どころか、七本も入っていた。普段から常備しているものに加えて、おそらく誕生日でもらった分が入っているのだろう。その中から一際目立つワインを取り出しラベルを見る。そこには丸みを帯びた字のメッセージとともに、凉樹の生まれ年の記載があった。これは完全に貰い物だ。しかも、異性からの。
リミットまで残り五分。手軽に持ち運びできるもので、今度は異性からのプレゼントというよりは、凉樹を身近に感じられる物が欲しかった。あともう一品だけ。その思いで食器棚を覗く。普段から料理をする凉樹にしては持っている食器が少ないように感じたが、その中で見覚えのある皿があった。それは、青の濃淡が美しい魚皿。手作りの風味が滲み出ている。
「これなら凉樹をそばに感じていられる」
俺はお皿をそっと取り出し、紙袋に入れる。ワインとぶつかって割れるなんてことがあってはならない。だから何か緩衝材替わりになるものを。そこで目に映ったのは、床の上に積まれたいくつもの服。これは昨日の夜、俺が凉樹に「いらない服があったら欲しい」と頼んで出してもらったもの。流石にこんな数は貰っていけない。リミットが迫る中、デザインやサイズなど気にする余裕もなく、袋に入る分だけを詰め込んだ。いい緩衝材と隠しになる。頬が自然と緩んだ。
新品同様の中古スマホの画面に表示された時間。タイムリミットの二分前だった。滴る汗を服で拭いながら自宅へ向かって走り出す。雨雲はもういなかった。