ドアが開いた先には、フライパンを見事に操る男性の姿があった。甲高いドアベルの音に応答するようにして、「営業は十七時からなんです」と言った後、その男性はこちらを見て「って、凉樹かよ」と呟いた。声は低かったが、嬉しそうな表情をしていた。
四年振りに見た凉樹の兄、広樹《こうじ》さんは、ぱっと見じゃ全然分からないぐらいに変化していた。特に髪色と肌の色が。
「馬鹿が、雨に打たれたか」
「いいだろ、別に」
「んで、何の用?」
凉樹は料理中の兄に、お構いなしという態度でペラペラと事情を話した。そして、店の奥にある一軒家へ案内された。自宅はレストランとはまた違って、ウッド調の壁紙が貼られていた。温かみのある色で統一された家具が並ぶリビングで、凉樹が浴室から出てくるのをただひたすら待ち続けた。幸せオーラを全面に感じながら。
俺がシャワーを浴び終わって出てきたときには、木製のダイニングテーブルの上にパスタが二種類置かれていた。ペペロンチーノとバジルソースのパスタ。好きなほうを選んで食べて、と広樹さん言われ、俺はバジルソースのパスタを選んだ。
「いただきます」
一口パスタを食べた瞬間に、俺の脳は覚醒した。もちもちとした細麺にバジルソースがよく絡み、口の中で相性抜群の旨味を生み出していく。こんなパスタを食べたのは、冗談抜きで、生まれて初めてのことだった。
ご自宅には一時間ほど滞在させてもらった。帰る頃には広樹の家族は二階の寝室で寝ていたために、声をかけることはできなかった。
「兄貴、そろそろ帰る」
「そっか」
「パスタ、ご馳走様でした。美味しかったです」
「あー、いいよいいよ。今度はお店に来てよ。咲佑くんとまたゆっくり話したいからさ」
「ありがとうございます。また寄らせてもらいますね」
「分かった。待ってるから」
広樹さんのよく焼けた肌と白い歯で微笑みかけられ、俺は愛想よく笑っておいた。
「兄貴、今日の借りはちゃんと返すからさ、また来るよ」
「おう。次は金払って食べろよ」
「分かってる。あ、マオさんには後で連絡入れるから、そのこと伝えておいて」
「はいはい」
「じゃ、また」
「おう」
二人は手を軽く挙げ合って、別れを告げた。
「ありがとうございました。お邪魔しました」
一方の俺は、頭を二、三度下げてご自宅を後にした。
雨を降らしていた雲の合間から顔を覗かせる太陽を背中に、歩き出した。凉樹が醸し出す負のオーラを感じながら。
四年振りに見た凉樹の兄、広樹《こうじ》さんは、ぱっと見じゃ全然分からないぐらいに変化していた。特に髪色と肌の色が。
「馬鹿が、雨に打たれたか」
「いいだろ、別に」
「んで、何の用?」
凉樹は料理中の兄に、お構いなしという態度でペラペラと事情を話した。そして、店の奥にある一軒家へ案内された。自宅はレストランとはまた違って、ウッド調の壁紙が貼られていた。温かみのある色で統一された家具が並ぶリビングで、凉樹が浴室から出てくるのをただひたすら待ち続けた。幸せオーラを全面に感じながら。
俺がシャワーを浴び終わって出てきたときには、木製のダイニングテーブルの上にパスタが二種類置かれていた。ペペロンチーノとバジルソースのパスタ。好きなほうを選んで食べて、と広樹さん言われ、俺はバジルソースのパスタを選んだ。
「いただきます」
一口パスタを食べた瞬間に、俺の脳は覚醒した。もちもちとした細麺にバジルソースがよく絡み、口の中で相性抜群の旨味を生み出していく。こんなパスタを食べたのは、冗談抜きで、生まれて初めてのことだった。
ご自宅には一時間ほど滞在させてもらった。帰る頃には広樹の家族は二階の寝室で寝ていたために、声をかけることはできなかった。
「兄貴、そろそろ帰る」
「そっか」
「パスタ、ご馳走様でした。美味しかったです」
「あー、いいよいいよ。今度はお店に来てよ。咲佑くんとまたゆっくり話したいからさ」
「ありがとうございます。また寄らせてもらいますね」
「分かった。待ってるから」
広樹さんのよく焼けた肌と白い歯で微笑みかけられ、俺は愛想よく笑っておいた。
「兄貴、今日の借りはちゃんと返すからさ、また来るよ」
「おう。次は金払って食べろよ」
「分かってる。あ、マオさんには後で連絡入れるから、そのこと伝えておいて」
「はいはい」
「じゃ、また」
「おう」
二人は手を軽く挙げ合って、別れを告げた。
「ありがとうございました。お邪魔しました」
一方の俺は、頭を二、三度下げてご自宅を後にした。
雨を降らしていた雲の合間から顔を覗かせる太陽を背中に、歩き出した。凉樹が醸し出す負のオーラを感じながら。