凉樹と会った翌日、項垂れるような暑さの部屋で会社に向かう準備をしていると、ベッドの上でスマホがメロディを鳴らしながら振動し始めた。
「もしもし?」
「お疲れ様です、咲佑くん」
「お疲れ」
「今、下まで来てます。準備できたら降りてきてください」
「あぁ、分かった。すぐ行く」
スマホを胸ポケットに入れ、必要最低限の荷物を鞄に詰め込み、家を出た。アパートのはす向かいにあるスペースに仕事用の軽自動車を停め、俺のことを待っていた。開いた窓から和田に声をかけ、そのまま後部座席に乗り込む。部屋よりも断然凉しい車内。エアコンの設定温度を調整する和田に、俺はいつも通り話しかける。
「凉樹から聞いたんだけどさ、俺と連絡取れなくなったとき、まさっきぃに俺が失踪したって伝えたんだって?」
「・・・はい。僕にとってマネージャー職をするの、咲佑くんが初めてで、連絡が取れなくなって心配で。怖いし、状況が読めなさ過ぎて、何をしたらいいか分からなくなって、正木先輩に咲佑くんが失踪したって伝えてしまったんです。今思えば、ただ単に連絡が取れないって伝えればよかったんでしょうけどね。テンパり癖が出てしまって・・・、すいません」
俺からの投げかけに動揺したのか、自然と俯くような姿勢をとる和田。話に夢中になる最中で操作する手を止めていたエアコンは、風量が強くなっていた。
「なんで謝るんだよ。和田は俺のこと心配しての行動をしてくれた。な、そうだろ? だったら謝る必要はないんじゃないか?」
「すい・・・、あ。はい。ありがとうございます・・・?」
和田の語尾は酒酔い人並みにふらついていた。
「ごめんな、心配かけて。和田にも連絡入れるべきだった」
「いえ、気にしてませんから」
風量の設定をし始めた和田。気にしていない、という意味がぴんとこなかった。俺がマネージャーである和田よりも先に、元メンバーの凉樹にへ連絡したからなのか、それとも俺と凉樹の関係性に嫉妬しているのか。
「何なら俺にGPSでもつける?」
「え、どういうことですか?」
「冗談だよ、冗談」
ふっと笑みを零した和田。俺のマネージャ―は笑顔が誰よりも眩しくて、似合う。
「咲佑くんは冗談が上手ですね。騙されかけました」
「え、そうか?」
「はい。僕、今初めてお伝えするんですけど、実は咲佑くんが出てるドラマ観たことがあるんです」
「え、あの狂気じみた役の割にはほとんど台詞が無かった、あのドラマをか?」
「はい。台詞の多少は憶えてないですけど、目の演技が上手すぎて当時、怖い思いをしてましたから。って咲佑くんと二つしか年齢変わらないんですけどね」
初めて和田と会ったとき、俺のことを全く知らないみたいな感じだったのにな。以外だな。
「へぇ」
「だから、そろそろ演技の仕事の依頼が来てもいいと思うんですけどね・・・。あ、ここはマネージャーが仕事獲ってこないとですよね・・・。すいません」
「演技、かぁ。和田がそう言ってくれるんなら、やってみるのもいいな」
「はい!」
明るく返事をする。瞳はキラキラと輝いていた。
「だからさ、またオーディションとかあったら教えてよ。俺、久しぶりに演技の仕事がしたいからさ」
「分かりました。色々検討してみます」
「頼りにしてるぞ、和田」
車は昼間の幹線道路を走る。運送業のトラックばかりが小さなこの軽自動車の横を追い抜いていく。和田は運転に集中していて、声をかけられなかった。その必死さがどこか初々しくて、自然と頬が緩む。和田はマネージャーになってまだ数か月。慣れないことだらけで疲れているだろうに、俺の前ではいつも明るく振る舞おうとする。そんな和田に俺は心配をかけさせた。いずれちゃんと謝罪の機会を設けないと、とは考えている。まだ実現しそうにないが。
「もしもし?」
「お疲れ様です、咲佑くん」
「お疲れ」
「今、下まで来てます。準備できたら降りてきてください」
「あぁ、分かった。すぐ行く」
スマホを胸ポケットに入れ、必要最低限の荷物を鞄に詰め込み、家を出た。アパートのはす向かいにあるスペースに仕事用の軽自動車を停め、俺のことを待っていた。開いた窓から和田に声をかけ、そのまま後部座席に乗り込む。部屋よりも断然凉しい車内。エアコンの設定温度を調整する和田に、俺はいつも通り話しかける。
「凉樹から聞いたんだけどさ、俺と連絡取れなくなったとき、まさっきぃに俺が失踪したって伝えたんだって?」
「・・・はい。僕にとってマネージャー職をするの、咲佑くんが初めてで、連絡が取れなくなって心配で。怖いし、状況が読めなさ過ぎて、何をしたらいいか分からなくなって、正木先輩に咲佑くんが失踪したって伝えてしまったんです。今思えば、ただ単に連絡が取れないって伝えればよかったんでしょうけどね。テンパり癖が出てしまって・・・、すいません」
俺からの投げかけに動揺したのか、自然と俯くような姿勢をとる和田。話に夢中になる最中で操作する手を止めていたエアコンは、風量が強くなっていた。
「なんで謝るんだよ。和田は俺のこと心配しての行動をしてくれた。な、そうだろ? だったら謝る必要はないんじゃないか?」
「すい・・・、あ。はい。ありがとうございます・・・?」
和田の語尾は酒酔い人並みにふらついていた。
「ごめんな、心配かけて。和田にも連絡入れるべきだった」
「いえ、気にしてませんから」
風量の設定をし始めた和田。気にしていない、という意味がぴんとこなかった。俺がマネージャーである和田よりも先に、元メンバーの凉樹にへ連絡したからなのか、それとも俺と凉樹の関係性に嫉妬しているのか。
「何なら俺にGPSでもつける?」
「え、どういうことですか?」
「冗談だよ、冗談」
ふっと笑みを零した和田。俺のマネージャ―は笑顔が誰よりも眩しくて、似合う。
「咲佑くんは冗談が上手ですね。騙されかけました」
「え、そうか?」
「はい。僕、今初めてお伝えするんですけど、実は咲佑くんが出てるドラマ観たことがあるんです」
「え、あの狂気じみた役の割にはほとんど台詞が無かった、あのドラマをか?」
「はい。台詞の多少は憶えてないですけど、目の演技が上手すぎて当時、怖い思いをしてましたから。って咲佑くんと二つしか年齢変わらないんですけどね」
初めて和田と会ったとき、俺のことを全く知らないみたいな感じだったのにな。以外だな。
「へぇ」
「だから、そろそろ演技の仕事の依頼が来てもいいと思うんですけどね・・・。あ、ここはマネージャーが仕事獲ってこないとですよね・・・。すいません」
「演技、かぁ。和田がそう言ってくれるんなら、やってみるのもいいな」
「はい!」
明るく返事をする。瞳はキラキラと輝いていた。
「だからさ、またオーディションとかあったら教えてよ。俺、久しぶりに演技の仕事がしたいからさ」
「分かりました。色々検討してみます」
「頼りにしてるぞ、和田」
車は昼間の幹線道路を走る。運送業のトラックばかりが小さなこの軽自動車の横を追い抜いていく。和田は運転に集中していて、声をかけられなかった。その必死さがどこか初々しくて、自然と頬が緩む。和田はマネージャーになってまだ数か月。慣れないことだらけで疲れているだろうに、俺の前ではいつも明るく振る舞おうとする。そんな和田に俺は心配をかけさせた。いずれちゃんと謝罪の機会を設けないと、とは考えている。まだ実現しそうにないが。